- Trinity Blood -4章
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「触れてもいいですか、お嬢さん?」
レオンの表情は、この目では窺い知る事が出来ない。
[#da=3#]の手はレオンが握っている。
何の冗談かと思ったが、しかしその声は冗談を言っている割に、真剣な声色だった。
「触れてもいいですか、お嬢さん?」
同じ質問を繰り返した頃にはもうその手は、[#da=3#]の腰へ回っている。
「あの」
「はい」
腕を押しても簡単に動く訳はない。
がっちりとホールドされたその腰は、びくともしない。
「…触ってます」
「はい」
はい、じゃない。
何をそんな。
普通にを返事している場合か。
「まだ何も…」
「ええ…、」
良いとは返事をしていないのに。
近付いてくる。
いや、引き寄せられている、ような。
「…ガルシア神父」
「何か」
声が、耳元で響く。
身長差がある筈なのに。
流れ込んでくる声にぞくりと、身体が反応してしまう。
吐息が、とても近くて。
必死で逃れようとしても、[#da=3#]の力では難しい。
「…困ります」
「優しく、致します」
声が耳を通して身体に響いてくる。
後頭部へ回った反対の手が、もう彼女を逃さなかった。
「そういう訳で、は…っ」
突然。
耳たぶが何か温かい何かに包まれ…――
「んあ…っ」
捕らわれた身体は仰け反る事も許されない。
耳元に届く水音が意識を遠避けようとする。
耳の裏を伝ってぞくりと何かが背中を通っていく。
「いや…っ――あ、のっ」
手が。
[#da=3#]の手が。
レオンの身体を押し離す。
いや、実際にはそんな力はレオンに何の障害でもない。
だがこの力ない手にレオンは、僅かに悲しみの表情を浮かべている。
あの時――
自分が止まらなかった、後悔。
あの時の方がきっと、力いっぱいレオンを押していた筈だ。
滲んだ恐怖の色でさえ、ただの媚薬だった。
止まらなく、なってしまう。
彼女を、前にすると――
「おっと――
脱線するつもりは…失礼」
いや、今の脱線はきっと計画的なものでは…と疑ってしまう。
しかし、今は突っ込んでいる場合ではない。
力を緩めたレオンの腕からすり抜ける。
しかし。
一枚上手なのは、やはりレオンだった。
「[#da=3#]嬢――」
捕らえられた手首が、[#da=3#]の動きを封じる。
「その後…記憶は、どうだ?」
見えない筈の表情を窺い知る事が出来たのは何故なのだろうか。
急に真剣な口調で、レオンが声を、掛ける。
手首を通してじんわりと広がっていくぬくもり。
この手を引いても、びくともしない。
この手まで離すつもりは全く無い様だ。
――…細いな
掴んだその手首はか細いもの。
左手首の十字架の付いた腕輪が、僅かに音を立てた。
レオンの瞳が僅かに曇る。
「取り戻したいか?未だ…」
彼 の瞳に、光が宿らない事は分かっていた。
しかし。
彼女のその瞳を、レオンは覗き込む。
光の宿らないその瞳には、月の光が映り込んでいる。
記憶か。
視力か。
例えばどちらかを選べと言われた時、お前が取り戻したいのはどちらなのか。
レオンは心の中で問い掛けた。
答えなど、返ってこない。
「過去の記憶を取り戻す事が出来たとして…」
言葉を、どう選んだらいいかと悩みながら。
[#da=3#]は慎重に紡ぐ言葉を探している。
レオンは急かす事もなく、彼女の言葉を待った。
なに、これは。
普段からよくある事だった。
いつも彼は、レオンが相棒と呼んだ[#da=1#]はそうだった。
心の中に言葉を沢山仕舞い込んで、話す時はいつも忙しそうに心の中で走り回っていた。
「埋もれてしまった自分の記憶が…新しい、今を生きている自分を掻き消してしまうのではないか…と」
そんな恐怖と闘っているのか。
笑みを浮かべている筈のその表情は、苦しみが滲んでいる。
記憶を失くしていたその間の1年と5ヶ月程が。
記憶を取り戻した途端に消えるのか、それとも残っているのか。
どちらの例も、過去にはある。
「記憶のない間に出来上がった自分が消えて、過去の自分に塗り替えられたとしても…」
恐怖から逃れるかのように、一度その瞳を伏せた。
「過去も、今も持ったまま記憶を取り戻したとしても」
もしかしたら記憶は、失くしたのではなく『閉じられた』のではないか。
一抹の疑問が、レオンの脳裏を過る。
「私が自分であるのは、一体どちらなのか…」
だとしたら。
レオンの記録から構築された思考は。
俺は…いや彼女は…とんでもない事を――
「記憶なんてもんは無理に探す必要なんてない。今から創ってもいいんだ」
その言葉を聞いて、[#da=3#]はレオンの方を向いた。
「以前も…仰いましたね」
この言葉が2回目である事はきっと彼女は知らない。
以前これを言ったのは[#da=1#]が、記憶を失くしたあの時。
「無責任な発言だってのは理解してる」
頼りない声で笑った。
その瞳にレオンを映し出す事は出来ない。
「どんなお前でも…俺にとってお前は相棒だ…」
「――…え?」
聞き取れなかったが。
確かに自分に向けて言われた事だけは分かった。
風が通り過ぎていく。
左手首の十字架が、音を立てた。
・・・
言葉が上手く繋がらなくなる前に、一旦終了。
モヤモヤした感じの恋愛って、
皆さん高橋R美子先生の
最高の演出で免疫ありますよね
きっと←
(大先生と混ぜるな危険)
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