- Trinity Blood -4章
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少し眠たくなってきた。
もうこんな時間なのに何時間も騒がしいこの社交場は、何故かとても居心地が悪い。
周囲を注意しながら足を進めていく。
もう少し静かな所に行きたいと、思いながら。
先程居たバルコニーに足を向ける。足を進めていく。
左右を通り過ぎる人や物、家具の位置を確認しながら慎重に。
バルコニーへ向かう扉へ手を掛けた。
扉をくぐり、その扉を閉める。
静かになったバルコニーは、いや扉の向こうは未だ騒々しい訳だが…あちらに比べたら未だ静かな方だ。
中から見えにくい位置へ移動して、石で出来た手すりへと寄った。
持ったままの、このスーツはどうしたらいいのか。
バルコニーから出る時に肩に掛かっていたスーツを膝に畳んで置いて一息、ため息をつく。
夕方ここへ来た時にはあまり感じなかったが、少し肌寒さを感じている。
スーツが乗った膝の部分が温かい。
纏めていた髪を下ろすと、その髪は重力に従ってさらりと落ちた。
腰元まで伸びた髪が風で揺れる。
大きく開いていた背中は髪のヴェールに隠された。
月は雲にその身を隠されていない様だ。
僅かに光を感じている。
正しい位置かは正確に把握出来ないのだが。
それにしても小煩い社交場。
どうしてこんなに煩いのが好きなのか…――
心の中で毒付いた。
月は答えない。
風も答えない。
肘を置いている、石で出来た手すりも。
何も。
石の手すりへと両手を置いて、月を見上げる様にして身体を伸ばしたその時。
「あれ、[#da=3#]さーん」
突然右側から声が聞こえる声。
右を向くと、どうやらもう一つ向こうのバルコニーに2人いる様だった。
「え?」
離れていた事で、バルコニにへ人が出ていた事には気付けなかった。
――…煙草?
風に乗って先程嗅いだ様な煙草の香りがその身をかすめた。
しかしナイトロード神父から煙草の香りなど一度も香った事が無かった様な気が。
「おお、[#da=3#]嬢!今日だけで何度も会えるなんて、もはや運命、だな」
「ちょ、レオンさん!仮にも伯爵令嬢ですよ!」
どちらも聞き覚えがある。
「ナイトロード神父と…、ガルシア神父?」
何故か分からないが、この光景が懐かしく感じる。
見えている訳ではないし、記憶には無い。
以前からの知り合いだったのだろうか。
だとしたら。
申し訳ない気は、している。
記憶にないと明言してしまった事に些かの後悔はある。
「そっちに行ってもいいかい、お嬢さん?」
「駄目に決まってるじゃないですか!」
「良いじゃねえか、休憩中なんだからよ。ちょっと待ってろよ」
「レオンさん…!もう!そんな気軽に話をしていい方では…って、もう!知りませんよ!後でお叱りを受けても!」
アベルが止めるその頃には、もうバルコニーの石でつながった手すりを渡って、彼女の傍に向かっている。
レオンと近付けてはいけない様な――
妙な使命感からアベルは内心焦っていた。
ただこういう時、レオンの行動力は本当に侮れない。
「レオンさんってば!」
先に辿り着いたレオンへ向かって、アベルらしき足音がこちらへ向かって歩き出した。
「お隣、宜しいですか?」
改まった様子で、レオンの声が近くで聞こえる。
「あ…これ」
綺麗に畳まれた上着を、声のする方へ差し出した。
「有難うございます、お嬢さん」
丁寧に。
レオンがそう返す。
スーツを差し出したその右手を、スーツごと握られるとは思っていなかった。
レオンのその手に握られた[#da=3#]は、スーツとこの手を間違えたのだろうと言い聞かせながら慎重に手を引く
しかしレオンは間違えて手を握った訳ではなく、計算した上でその手を握った様だ。
右手が引き戻せない。
やや遅れて到着したアベルに期待したが、どうやら彼はどうやら気付いていない様子だった。
「ちょっとレオンさんったら…[#da=3#]さんすみません、突然お邪魔して…!」
先程掛けられた声の感じでは大した距離ではなかった筈だが、何故か疲れ切った様なアベルの声が後ろから追い掛けてくる。
「いえ…それより先程は有難うございました、ナイトロード神父」
言われてアベルは「いえそんな!」と、[#da=3#]の言葉を遮る様にそう返す。
「困った顔の[#da=3#]さんが目に入ったから…」
「おいおい一体、誰に絡まれたんだ?」
レオンの指先が、ぴくりと跳ねる。
声は穏やかだったが、その指先には僅かに力が入っている。
握られたままのその手から、レオンの感情が伝わってくる様だった。
「あ、違うんですよレオンさん、ペテロさんに衝突されてて…あの方ほら、ちょっと大きいから」
「そうだったのか…怖かっただろ?ありゃただの壁だからな」
引こうとしたその手から、しかしその手は一向に[#da=3#]の手を離さない。
伝わってくるぬくもりに身体が徐々に強張ってくる。
「って!いつまで手を握ってるんですか!」
二人の間にアベルが割って入る。
しかしアベルの力ではレオンの腕を引っ張っても、[#da=3#]を握ったその手は離れる気配がない。
「あ?いいじゃねえか減るもんじゃなし」
「そういう問題じゃないですよ!伯爵公やカテリーナさんに知れたら…あわわ」
「お前はケイトか?」
「もう…あ、失礼――はい?」
鼓膜を刺激するような音が耳へ届いた途端。
声色が変わる。
「…すみませんちょっと、失礼――」
足早に、アベルが遠くなっていく。
足音が消える。
何故そんなに、切れよく去ったかは分からなかったが。
バルコニーの扉に付いた鈴が鳴って、静寂が訪れた。
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