- Trinity Blood -4章
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バルコニーで。
ガラリと大きな鈴の音が聞こえる。
バルコニーの扉が勢いよく開いた。
2人で連れ立ってバルコニーを潜る。
「だー、くっそ…あちい」
ネクタイを緩め、煙草をポケットから取り出す。
「おい、何でこんな何でもねえ平和な社交界に俺が駆り出されるんだ?」
綺麗に纏めた頭を、バリバリと掻く。
火を点けると、一息煙を吸い込む。
「まあまあレオンさん、たまたま任務から戻った時と、社交界のタイミングが重なっただけじゃないですか」
石の手すりへ肘をつき首を垂れているレオンに、アベルは笑い掛ける。
「気軽に言うぜ…」
うんざりした様子でため息を付いたレオンは「俺は着飾った女共より、着飾らなくても可愛い娘たちの方が好きなんだよ…分かんねえかなー」と煙を吐き出しつつぼやいた。
「それより、支給された筈の上着はどうしたんです?」
レオンはそう、上着を着ていない。
最初に支給のスーツを着た時は同じ所で着替えたし、17時前の最終打ち合わせの時に会った時も、上着は着ていた筈。
「あ?あーあれな…
さっき眠り姫がな、バルコニーで居眠りしててよ」
「眠り姫?
――それってまさか…レオンさん…会ったんですか?」
やはりそうか。
先程異端審問官のブラザー・ペテロと会った時に彼女が持っていたあの上着はやはり、レオンの物だ。
「おお、まあ向こうは寝てたみたいだけどな」と、笑う。
石の手すりへ背を預け、大きく身体を仰け反らせる。
「…[#da=3#]さん」瞳を曇らせるアベルの表情が視界の端に入った。
伸ばしていた身体を戻し「おいお前、あのお嬢ちゃんに惚れてんのか?」と、にやりと含み笑い。
「もう!茶化さないで下さいよ、レオンさん!」
ぷいとあちらを向いたその仕草が妙に子供っぽい。
思わず口端を上げる。
「確かに彼女可愛いですからね!あ、だめですよレオンさん、彼女に手を出しちゃ!」
「はは、そいつぁ保証できねえな」
「へ?」間の抜けたアベルの声を受けて。
「何せあの嬢ちゃん、純情そうで口説き甲斐がありそうだからな」煙草を指の先で弄んでいる。
「レオンさん――」
大漢の前で、長身の男は肩を落とし下を向いた。
何故か。
彼の言わんとしている事は何となく分かるが。
「おい恋煩いか?…何が言いたいんだ?」
レオンはそ知らぬ素振りを見せてアベルをからかってやる。
顔に出やすいんだよ、お前…――
「あのレオンさ「いいかへっぽこ、踏み込んじゃならねえ内情もある」
「…ああ…え、ええ」
アベルの言葉を遮ったレオンに「そうですね」と、それ以上の言葉を飲み込んだ。
「ここに居る女共は、何か下心しか見えねえからな…息が詰まりそうだ」
頭をバリバリと掻いて、レオンは指先で遊ばせていた煙草を咥える。
「その中であの[#da=3#]って嬢ちゃん、あんな所で無防備に寝ちゃってよ。『お召し上がり下さい』って言ってるようなもんだろ?」
そこが可愛いんだけどな、とは言わなかった。
彼女の意識を飛ばした原因は自分だから。
抱き締めた女性の香りも、密着させたときの体温の低さも、頼りない腕の細さも。
ふとした時に重なる幾つもの仕草も、全部が[#da=1#]と同じ。
あの香りを、覚えていない訳がない。
身体の温度も。
細いその腕も。
全てに触れ隅々まで味わったのだ。
その身体を忘れる訳がない。
「ちょ、何言ってるんですかレオンさん!私たちは仮にも聖職者…って、もしかして?!」
赤くなったり青くなったり。
忙しいやつだな、と内心で突っ込む。
煙草を口から離して煙を吐き出しながら「おいおい勘違いも甚だしいぞへっぽこ。俺ぁむしろ上着を貸してやった事であの嬢ちゃんを護ってやった方だ」にやりと笑って。
「男が居るって匂わせた方が、誰も手を出せねえだろ」と続けた。
俺の、大切な――
視線に気付いてアベルの方を見ると、何故か瞳を潤ませた乙女…いや、アベル。
「レオンさん…私ちょっと、きゅんとしちゃいました」
「止めんか」
良い事言ったのに、と言わんばかりに盛大なため息をついた。
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