- Trinity Blood -4章
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首元が締まっていると息苦しい。
こんな時に社交界など…面倒な世界だ。
配置位置は確認した。
あとは開始時間を待つばかり。
10分の休憩を取れる事になり、バルコニーへ向かい扉をくぐった。
小さな鈴の音を背中で聞きながら、煙草を咥える。
チリン
左隣のバルコニーの扉が開く。
隣のバルコニーへ入った来た、ドレスを着た女性。
石の手すりに肘をついてその身を預ける。
反ったその背中に月の光が降り注ぐ。
頬杖をついた女性が、空を見上げる。
女性の仕草に魅入ってしまい、咥えたままの煙草はその役目を果たせぬまま口元で留まったまま。
風に揺れるその前髪は器用にその表情を隠している。
ドレスに身を纏った女性の左手首には十字架の付いた腕輪がついている。
それは他の装飾品に馴染んではいるものの、何か、全体的な印象を控えめにしている様な。
それに…――
見覚えがある様な?
女性のその仕草に見惚れてため息一つ。
東洋にある物語で、竹取物語でも思い出しそうな位切ない様子で月を見上げている。
ふと、目を凝らしたその時。
バルコニーに繋がるベルが小さな音を立てて扉が開いた。
音のした方に僅かな警戒の色を含んで「どなた?」と問いかける。
「失礼。お隣宜しいですか、お嬢さん?」
短髪の、髪の感じはトレスを思わせたが、男は彼と違い、月夜に照らされて余計にいやらしい笑みを女性に向ける。
男は身なりをきちんと整えていたが、その様子は呼吸を少し荒くさせ、瞳は女性をまるで舐める様に下から上へ流れている。
「申し訳ありませんあの、今は――」
「まあ、そう言わず」
断っているのに、食い下がる男はニヤついたその口元で彼女へ向けて戸惑い無く歩いてくる。
「貴女が目が見えないというのは本当ですか?」
距離も僅かになり、胸元からゆっくりとすくい上げる様に顔を上げながら「父達が話していたので」と続ける。
目の前で立ち止まり、男は一息、彼女の首元で息を吸い込む。
「ええ――最も…貴方にご迷惑をお掛けしているつもりはありませんが?」
一瞬たじろいだ女性は、しかしはっきりと言葉を紡いだ。
「この女…ッイタタタタ?!!」
隣のバルコニーから高く跳躍し二人の間に割って入る。
それと同時に今にも触れそうなその手を阻むように男の手首を掴み上げ、反対の手で女性を抱え上げる。
「え…な、っ」
腕の中で小さな悲鳴を上げる女性に、口端が少し上がってしまった。突然音もなく降り立った大漢に、状況が掴めず腕の中で固まっている細く頼りない腰元を支える。
「そいつは俺のツレだぞこの変態野郎」
抱き上げたこの細い身体に眉を顰めたのはその時だ。
この細さを、俺は知っている?
「なん…何だ貴様!俺はフェザリア子爵の第一子!失敬であるぞ!その手をアイタタタ!」
無意識に男の手首を掴む手に力が入ってしまう。
「へえ?随分肝が座ってるんだな…人のモンに手ェ出すとは――
お前もしつけてやろうか?俺は痛めつけるのが好きなんだよ」
今はとにかく、この女性を護る事が最優先。
記憶のあるこの細い身体に、思考を巡らせている場合ではない。
表情を崩さない様に、目の前の男へと意識を集中させる。
「ぐ…っ!何をっ!私を誰だとおおオオオ痛い離せ!」
「だから――」
男の耳元へ顔を寄せ「メス犬みたいにキャンキャン可愛く啼かせてやろうかって言ってるんだよ」と、囁いてやる。
「俺は『躾ける』のが好きなんだ」
月の光を帯びたその金色の瞳が、怪しく光った。
それはまるで、獣の様な瞳。
男へと向けられたその瞳は狂気に満ちている様で。
獲物を狙い定めた様なその瞳に、男はびくりっと肩をあげて激しく首を左右に振ると「ヒイイイッ!やめてくれえええ!」と叫びながらその手を振り払い、まるで飛ぶ様に走り去った。
「ばーか。俺は女しか興味ねえよ。一昨日来やがれ」
心底嫌そうに呟く声に導かれる様にレオンを見上げた女性が「あなた、は?」と声を掛ける。
大漢の腕に抱きあげられたその小柄な女性に覚えがある筈だ。見間違える筈も無い、彼女は――
純粋に再会を喜びを隠せないレオンは「よう[#da=3#]、随分久しいな!」と、声を掛けた。
「ガ…ガルシア神父?――
え、でも以前と印象が大幅に違う様な……」
「あ…」
やばいそうだった。
「いや…えっと」
以前会った時は、出来る限り紳士を装った様な。
空笑いをしてその場を誤魔化しながら、何と言うべきか迷っていると、[#da=3#]があまり高くない背を伸ばす様にレオンを見上げている。
身長差のあるその身体が小さく収まったままだが、[#da=3#]の右手がレオンの身体に触れている。
「でもあの…ところでどうやって此処へ?」
首を傾げ「バルコニーのベルは鳴らなかった様な…」と呟くその仕草に背中の辺りでぞくりと、電気が走った様な感覚。
何とか平静を保とうとしながら、奥底に抑えつけていた感覚がじわじわと蘇ってくる。
「え、はは…いや、まあ」
落ち着け…、と言い聞かせながらレオンは笑って過ごそうとしたのに。
「理由はどうあれ…有難うございました」
腰に回したままでいたその腕に、[#da=3#]の指が触れた。
ごくり、と喉が鳴る。
「いけませんそんな…男性にそんな風に触れては…――」
理性が。
「これは失礼、を」
理性が、飛ぶ。
待ってくれ。
近い程に…――
[#da=1#]を感じてしまう。
ああ、彼女が。
俺には彼女の香りが強過ぎて…――
突然引き寄せられ、[#da=3#]のその身体が僅かに跳ね上がった。
「ガルシア…神父?」
問い掛ける声が、不安を帯びていく。
構わず背中へ腕を回す。
折れそうな程、細い腰。
手首に這わすその指に、[#da=3#]の身体が強張った。
背中に回したその手が上へと上がる。
素肌に触れたその感触に、たまらない感情が溢れ…
「あの…っ」
その力は弱々しく…いや、恐らく彼女にしてみれば力いっぱいに彼を押し離そうとした。
が、しかしレオンにとっては実に、ひ弱なものだった。
この感覚にも、覚えがある。
この力ない手に。
本能が、彼であると確信していた。
勿論誰かに、確認した訳ではない。
この手に残ったぬくもりが。
腕に残った香りが。
押し離そうとしたその力が。
[#da=1#]・[#da=2#]だと、確かに確信した。
ただし、これは本能が、いや全身がそう言っているだけだった。
目の前にいるこの女性が、自分は正に[#da=1#]・[#da=2#]だと、言った訳ではない。
飛び掛けたその理性を引き戻したのが他でもない、彼への後悔の念。
力などは、レオンには何の障害にもならないものだったが。
ただ。
この何でもない力に。
現実へ引き戻された事は確かだった。
従わなければいけないと、思ったのだ。
今度こそ。
彼女の心を、護らなければ。
レオンはその欲望を抑え込みながら、そっと彼女をその腕から解放した。その場で膝をつき、ゆっくりと頭を下げる。
「お嬢さん…いえ、[#da=3#]・アーチハイド伯爵令嬢。
どうか…非礼を、お許し下さい――」
その瞳は、既に伏せてしまって。
「――神は御心に…?」
短く呟いたその言葉には、聞き覚えがある。
自分が同じ過ちを犯してしまった事を感じていた。
あの時の朝レオンは確かにこの言葉を聞いた。
「俺は2度もお前を…いえ…貴女を苦しめたのに…」
膝をついたまま。
静かに俯いた。
「何も、償えない――」
その場で膝をついている大漢の傍に、[#da=3#]は同じく膝をついた。
「…ガルシア…神父」
膝をつくレオンのその手に、[#da=3#]の手が重なる。
顔を上げた直ぐ傍で。
彼女は同じように座り込んでいる。
ぬくもりが伝わる[#da=3#]の手は確かに震えている。
前髪で器用に隠れた瞳が風でふわりと垣間見える。瞳を伏せたその表情に、恐怖の色が滲んでいる。
「私…助けて頂いたのに――」
消えるような声で「ごめんなさい」と呟く。
「[#da=3#]嬢…」
大きな掌には[#da=3#]の、震える小さな両手が乗せられていた。
・・・
うおー。
全部が急展開過ぎるんだけど…
そうじゃないんだ。
全部、
行き当たりばったりなんだ(待てよ)