- Trinity Blood -4章
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客人・下
一時的な意識消失の筈だったが、結局彼女はそこから目を開ける事が無かった。
日もすっかり沈んでいる。
一応報告書も何とかクリアし、明日から2日間の自由時間を手にした。
しかし一方でこの女性客とのトラブルがレオンを未だこの場へ引き止めている。
客室に移動させるようにと言われた為、レオンはこの客人を客室に運ぶ事になった。
ベッドで静かに寝息を立てるこの少女は、愛しき相棒と瓜二つ。
[#da=3#]の左手首に付けられた、腕輪をそっと指先でなぞった。
複雑な思いを抱えたままレオンは同じ部屋に留まっている。
ベッドの傍に椅子を置いて、レオンは窓の向こうに見える星を眺めていた。
「う…ん――」
声の主の方へ眼をやると、顔を向こうへ背けている。
露になった首筋が目に入った。
思わず魅入ってしまう。
薄っすらと汗ばんできた彼女が、何か喉元で言っている。
耳はよく聴こえる方だったが、獣の耳でも聞き取り難い。
呻くように「やめ…てっ」と一度声を発した。
表情を伺おうと顔を近付け――
突然急にはっとした様に起き上がり左右を見渡す。
しかしその瞳は既に光を失っている。
左右の手を動かして、自分が居る場所がベッドらしいという事を確認する。
周辺を見渡している。
見えていない筈だが…?
何をそんなに警戒しているのだろうか。
レオンが傍にいるにも関わらず、その事にはどうやら気付いていない様子だった。
「誰かいるの?」
ゆっくりと辺りを見渡している様だったが、目が合った筈のレオンにはやはり気付かない。
彼女がほっとした様子で、胸を撫で下ろす。
「…夢…か――」
僅かに疑問を抱いた。
安堵した様子のその表情に。
気が付けば。
その様子を見ている内に、すっかり返事をするタイミングをすっかり逃してしまった。
今すぐ声を掛けなければと、思っていた。
どう声を掛けたらいいか戸惑っている内に、[#da=3#]が両手を伸ばし頭を持ち上げて身体を伸ばす。
「ん…ぅっ」
漏れ出た声、しなやかに反り返った背中。
くたり、と身体を戻して軽く頭を振って。
髪が滑る様に耳元から肩と通った。
目の前で起こった事に頭が追い付かず、レオンは眩暈を起こしそうだった。
誘惑でもされているのかと、息を呑む。
突然。
姿勢が戻る。
警戒の色を滲ませて、先程より少し強い口調で「誰かいるの?」と問い掛ける。
「[#da=3#]・アーチハイド嬢、返事をするタイミングを見誤ってしまって…不安な思いをさせてしまい、申し訳ありません」
正直に、レオンは謝罪する。
「……ガルシア神父?
――あ…私…っ」
[#da=3#]が両手で顔を覆う。
いつも彼と行動を共にしていたが、こんな表情見た事がない。
心臓が高鳴る。
[#da=1#]はもしかして…
随分慎重に生活していたのではないだろうか…――
いや、まだ決まった訳ではない。
しかしぼんやりと確信はあった。
「いえ、こちらがすぐに返事が出来なかったからです。どうか…」
どうか…、どうだというのだ。言葉が見付からない。
謝罪すれば、済むような問題ではない。
レオンはそれから先を続ける事が出来ないまま。
「あの、先程『誰かいるのか』と起き抜けに訊ねていましたが、どういう意味でしょうか?」
失礼だとは思いながら。
いや、何となく今の態度で理解した気がするが。
レオンの言葉を受けて。
[#da=3#]は瞳を伏せる。
説明するか、悩んでいるのだろうか。
「’お嬢さん’…わたしは今一人です」
強く瞳を閉じた幼い顔立ちの女性は、苦しそうに口元へ手をやった。
言いたくない、とその手が語っている様な。
でも、もうその気持ちを吐き出してしまいそうな口元。
俯いた彼女の肩からさらりと髪が零れ落ちた。
「目が…見えない事を逆手に取られ……乱暴を…」
耳を疑う。
背筋が凍る。
言葉の通りなら、とんでもない話だった。
「何度か着替えや入浴を覗かれた事があって、…」
それを知った伯爵がすぐに手配をして、侍女や執事を常時配置する様に指示した。
が、隙なくやっていたつもりでも所詮はお互い人間である。
うまれた隙に潜り込んだ男が、乱暴を働いたのだ。
以降突然意識が途切れる現象が起こり、それが『神経調節性失神』と診断された。
彼女がカテリーナ・スフォルツァ枢機卿を訪ねたのは『神経調節性失神』と診断された事を伝えに来たからなのか?
しかし流石に、盲目の人間に暴行だなんて、犯罪以外の何でもない。
こんな話…レオンの予想を超えていた。
その身を寄せて、小さくその身を両腕を震える手で包む。
今、誰かいるのかという質問を受けて返事をする事が出来なかった事に後悔が隠せない。
もしあの場で声を掛けず口を噤んでいたら…――
俺はそのクズと同じだ。
今回の件についてアーチハイド伯爵がカテリーナ・スフォルツァ枢機卿へ連絡をしたらしい。
[#da=3#]は養子としてアーチハイド邸に入りその身を置いていたという事が分かった。
そう言えば何度か養子として引き取りたいという話が過去にあったとは聞いていた気がする。
ただ、レオンが教皇庁国務聖省特務分室に巡回神父として加入したのは[#da=1#]の養子の話はちらりとしか聞いた事が無い位過去の話で、今の今迄思い当たりもしなかった。
養子…か――
表向きは客人として招かれた様だが。
いくら自分が男だとしても、見知らぬ誰かに目の前で着替えや入浴している姿をまじまじと見られているなんて流石に気持ちが悪い。
光を失ったその瞳で何も確認する事が出来ない中で起こった『事件』は、どれほど恐怖だったのだろう。
自分では想像をする事しかできないが、その恐怖を計り知れない。
しかし、[#da=3#]が[#da=1#]と同一人物ならばその事件の一端は自分が担っている事になる。
欲を抑え切れなかった事で心を傷付けた、幼い少年に対して行った愚行がきっかけでこのような事態を招いてしまったと、止め処ない思考がレオンに襲い掛かる。
眩暈さえする。
同一人物なら。
俺が彼を、いや彼女を恐怖に陥れている原因だ。
目の前で怯えるその女性に、レオンは何と声を掛ければいいか悩んだ。
「[#da=3#]嬢、」
言葉も選び切れないまま[#da=3#]に声を掛けた。
「貴女が受けた恐怖には…寄り添っても添い切れない」
どう話せばいいか、もう選ぶ言葉すら浮かんでこない。
「ですが…せめて今この瞬間は私がお守りします」
[#da=3#]は驚いた様子でこちらを向いた。
彼女は声のした方を見た様だったが、レオンは恐らく[#da=3#]が想像しているより全体的に大柄だからだろう、見上げる先が僅かにずれている様子だった。
そこに触れる事は無く、レオンは頭を下げる。
勿論彼女には見えていない。
「ガルシア…神父――」
レオンの肩口に何かが当たる。
反射的に顔を上げると、触れたものが指である事が確認できた。
「強く…ならなければ」
弱弱しいものであったが、彼女の言葉は、レオンの耳にはっきり届いた。
強いんだな。
いや、強い。
俺は、やはりこの強さを知っている。
「今回ここへ足を運んだのは…私が強く、なる為」
静かに。
レオンは息を吐く。
何の因果か。
いや、緋の法衣を纏った鳶色の瞳を持つその人はこれを必然的に引き起こそうとしたのだろうか。
――…[#da=1#]
堪え切れない感情が、彼の名を呼んだ。
この手で抱き締める事はできない。
ただ、レオンは今彼女がここで確かに生きている事を噛みしめていた。
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文才の壁にぶち当たって、長らく話が進まず悶々とした日々が管理人をぶん殴っております。
もうすっかり読者もいらっしゃらないと思います(カウンターがJAVA終了しているのですがそっちは今放置…ストーリー展開させたい)が、展開が気まぐれているのでさてどうしたものかと考えつつ。
ともかく読者が自分だけという静かなHPですが自分の為に楽しく更新し続けたいと思います。
pi×iv?は敷居が高い気がして私にはもう手が出ません^p^
誤字脱字だらけっていうこの小説の修正もままならないので^Ч^
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