- Trinity Blood -3章
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*
「少し変わりましたね、[#da=1#]さん」
「?」
その言葉を受けてアベルの方を少し見遣る。
視線の端にアベルが映ると、長身の神父は気を遣ってくれたのか、また何か気難しい話をしようとしているのか、少し視線を逸らした。
「…最近私の知る貴女では無い様に思えます」
どういう意味だと問う前に。
アベルは小さく言葉を発した。
「人と話をする事に今まで程の抵抗は感じないのですが?」
「そう、ですか?」
実際『人』と話をする機会は増えた様に思う。
その変化は実に僅かなものだ。
少し、交わす言葉が増えただけだと思った。
記憶を巡らせる少女が見せた横顔に、アベルは十数年ほど昔に出会った一人の少女の事を思い出していた。
その少女は美しいまでの鳶色の瞳を宿し、真っ直ぐに自分を見詰めた。
彼女との出会いがなければ、今自分はこのバルコニーで早朝から同僚と話をしていなかっただろう。
二度と慈愛に満ちた瞳を向けてくれる事のない、気付くのが遅かった愛しい人物。
動くことのない亡きがらに添い遂げる献花の様な日々を過ごしていた自分を思い出していた。
「…っ」
冷たく吹いた風に、ぐらりと世界が揺れる。
「冷えてしまいます、中へ…」
「大丈夫です」
優しい神父は伏し目がちに「でも」と呟いて言葉を切った。
「私には…」
この位が、本当は良いのだ。
言葉を紡ぐにはあまりに未熟。
この言葉が果たして良いのかとさえ思うのだろうか、考える力が言葉を止める。
静かに目を伏せた子供は、改めて素足の自分の足元を見詰めた。
「…ナイトロード神父」
「誰かが言いませんでしたか?」
「え?」
見上げるような長身の神父。
彼へと瞳を向けると、[#da=1#]へ向いた神父はにこりと笑顔を向けた。
「貴女に何かあると、沢山の人が心配します。だから、何かあって欲しくない」
静かに伝えられた彼の優しさは底をつくのも知れない。
「[#da=1#]さんが体調を崩したなんて言ったら傍に居た私なんて皆さんから袋叩きですよっ!」
こういう愛らしさも、不思議と母性本能をくすぐられるのだろうか。
スフォルツァ枢機卿がやたらに目を掛けるのはそれだけではないと思うが。
「…寝ましたか?」
「はい」
浴室で。
石のタイルが自分の体力を奪っていく感覚を感じながら、[#da=1#]は体温を感じなくなっていく事に安心する。
眠ったというより、気を失っていたという方が言葉としては正しい様に思うが。
「本当に?」
見透かした様なアベルの瞳。
「…はい」
嘘をつく瞳は、前髪に隠れて見えずにいる。
真実は隠せる。
身を清めなさい
びくりっと身体が強張った。
奇しい瞳が、目の前で笑った。
君への洗礼は、明日の夜に
昨夜から今日に掛けてレオン神父と数回交信し、定時連絡にはトレス神父とも交信した。
今晩は必ず司教が動く。
洗礼という名目で、[#da=1#]のその身体を切り刻むのだ。
軟禁状態のアジアナ・ループの保護を優先に行う、というのが枢機卿の指示。
手紙の送り主であり、口封じの為に軟禁中の少女。
現在は常に司教の傍に置かれており、彼女が不穏な動きをしないように見張っている。
「傷付いて欲しくない…」
貴女には、と呟くように伝えるが[#da=1#]は視線を向ける事はしなかった。
*
…早く潜伏終わらないかな?
私の文才の無さが目の当たりになってきた…っ!
*