- Trinity Blood -3章
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ぼんやりと無機質な白の天井を見上げ、清潔を絵に描いた様な音のない病室に独りで居る。
何の刺激もないような白を基調とした空間の中で、最近になって違和感に気が付いている。
あれは、色があったはず…
ほんの僅かな違和感だった。
しかし、その違和感は少しずつ視界から色を奪っていくのだ。
このまま、色がなくなってしまうのか。
色を感じにくくなっているのだろうか。
それとも以前実験の際に指摘された、瞳の色の変色が関係しているのだろうか…。
このまま色が消えてしまったら、視力もなくなってしまうのか。
こうやってただぼんやり天井を見上げる事もかなわないのだろうか。
過去から現代までの知識が隅から隅まで詰まった新聞を読むことができなくなるのだろうか…――
何を考えているのだろうかと思いながらも、答えなど見えないのに心が落ち着かない。
別に何か考える事もないだろうに。
考えるのを辞めようと思いながら、実際は多分そんな自分をどうやっても止めることが出来ないのだろう事は理解している。
扉の外ではナースの足音や、斜め向こうの部屋の咳払いが聞こえてくる。
静かな病室で、見覚えのない点滴の滴が同じ感覚で静かに落ちていく。
それがこの細長い管を通って、身体に刺さった針から自分の血管に進んできて血液と共に流れ染み込んでくるのだろう。
じっとこの機械的に行われている作業を、横になったまま受けている。
鳥のさえずり、木の葉のざわめき、風の音。
自分に不要な物が多過ぎる。
感じなくてもいい、生きているという事を考えながら。
間違いなく死に向かっている事を、感じている。
死が恐いという事は、生きる事に意味を求めているという事なのだろうか。
自分の心が妙に戸惑っている事を感じながら、何もかもを遮断するようにその瞳を閉ざした。
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世界がぼんやりと薄暗くなっていた。
点滴は見慣れたものに戻っている。
まだ生きているようだった。
――困ったな…
あまり生きていると、この世界に一分一秒と心残りが出来る。
教授が以前、死について考えるかを聞いた。
独りで居る時には死について否定もしたし、肯定もした事を思い出す。
だけど、自分は教授に何と言ったのだろうか。
まだしっかり覚醒しないままで、記憶を巡らせていく。
そういえば一度『生命の為に、心が奴隷になっていないか』という記事を読んだことがあった。
実に興味深いものだった。その記事を書いていた記者は「大災厄」以前の新聞である事は明らかだし、生きていたとしても百に近いからもう引退をしているのだろうが、いつもこの記者の記事は興味深いものばかり。
深層心理を紐解くものであり、もちろん哲学的な話ではあったから掲載も不定期だったが見つける度に何度も読み返し人の考えが実に十人十色であるかを実感させるものだった。
自分が思っていた考えとは違う、新しい考え方が書かれている事が多かったのだ。
新聞…読みたいな――
記憶を巡る旅は途中でやめてしまったのか、急に新聞へと気持ちが動いた事には自分でも驚いてしまう。
欲を持てば、皆死を考えないと新聞の記事の中で演説している教授がいた。
今この瞬間の気持ちが、その教授の考えに当て嵌まるかも知れない。
独りで、長い溜息をついた。
静かな空間に、大きく響いた様に感じる。
視界がはっきりとしてきたところで点滴をしている腕に細心の注意を払いながら上体を起こした。
背を向けた窓から、夕闇が迫っている。
伸びた影が正面の扉に向かっている。
何故、起き上がったのか。
自分の行動に1つ1つ疑問を感じてしまう。
だが、その疑問にもどこかに答えがあるのだろう。
点滴の最中に起き上がろうと思う事はあまり無い。
だが、理由もなく起き上がった時には1つの答えが近付いてくるのだ。
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