- Trinity Blood -3章
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「んん…」
渋い、というより苦みを含んだような声が低く響いた。
はっとして眼を開ける。
自分の周囲に何か異変でも起こったのかと、静止を保った状態で周囲を警戒する。
トレス・イクス神父が視界に入ったが、彼を見る限り異変が起こった様子はない。
では今のは――
視線を移すと、そこには意識を手放して唸るように寝息を立てるレオンの姿。
まるで無防備にしているように見える彼の寝顔は、しかし隙がある様には見難いものだった。
じっと、覚醒したばかりのぼんやりとした視界の中で[#da=1#]はレオンへと瞳を向けている。
「損害評価報告を、[#da=1#]・[#da=2#]神父」
飛び込んでくる言葉。
「…問題ないです」
「否定。一○,六四二秒が既に経過している」
3時間以上意識を手放していた事になる。
しかし[#da=1#]は、これ以上の回復が見込めない事は理解している。
表面上の回復は既に終了しているが、どうも体内での異常が起こっている。
指先の動かし難さや、足先の刺激の少なさが自覚できているのだ。
「損害評価報告を、」
硝子の様な瞳がこちらを向くと、その瞳に吸い寄せられるように視線が混ざり合うのを感じた。
逃れる術を知らない[#da=1#]は、ただじっとその瞳を見詰める。
しかしその視界はぼやけたまま輪郭がはっきり浮かばない状態でトレスの瞳を懸命に見つめている。
「寝起きで頭回ってねえんだろ、勘弁してやれよ拳銃屋」
その混ざり合った視線を解す様な声で、レオンは言葉を投げかけた。
「レオン・ガルシア・デ・アストゥリアス神父、卿の発言意図が不明瞭だ。」
「良いか?寝起きが悪い奴だっているんだから軽率に話し掛けるなって言ってるんだよ」
「否定、それでは回答になっていない」
「お前みたいにちょっと顔が良くっても、寝起きに話し掛けられると殺気立つ事だってあるんだよ」
「…顔が良い…肯定。俺の顔は人工的に隙の無いように創られた―――」
「あーあーあー!分かった!くっそ…生まれつき顔が良い奴はホント悩みないよなっ!」
「発言意図が不明だ。回答を――」
「そこまでだ、君たち…」
呆れた様子で声を掛けた紳士がやれやれと口元でつぶやきながら部屋に足を踏み入れた。
「トレス君、[#da=1#]君は'病み上がり'なんだからあまり質問責めにしてはいけないよ?」
まだ上半身を起こしてもいない[#da=1#]の傍へと腰を下ろしながら、甘い香りを纏った紳士がトレスへ話し掛ける。
「[#da=1#]君は僕の知識を拡げる勉強相手でもある…彼は一つの質問にとても丁寧に答えてくれる」
頭を撫でるなど、もっての外。
教授は決して彼――[#da=1#]に意識がある時に、その身に触れることは無い。
彼の事を理解し、意識のあるその間はこの距離を縮める事は一度もした事がない。
「だけど自分の気持ちをどの様に言葉にするか非常に沢山の時間を要して考えるんだよ」
興味はある。
人として、'異性'として。
しかし、教授は彼が神父としての称号を受け神に背いた時に、性別を問題としない様に努めている。
教授は先日、彼が自分の手に触れたことを思い出していた。
勿論時間に換算するとほんの僅かだった。
ついうたた寝をしてしまった事で、彼にはひどく気を遣わせてしまったのだ。
だがその指先が触れた事に、自分は気が付かなかった事にしている。
教授を起こさない様に…と、とても神経を集中させてくれたのであろうという事が理解できたからだった。
感謝の気持ちを伝えたいけれど、彼の心に傷を増やす危険がある。
「だから、回答を急がないでやり給え。いいね?」
「肯定…明確な回答を要求している。曖昧な表現でなく理解出来るものであれば問題としない」
自分に言い聞かせるように、そして、あの日の事を口にしない事を固く誓うように。
教授は緩やかにその口端を上げて「ありがとう」と短く答えた。
「あとね、レオン君…顔だけで判断する訳じゃないけど手を握られただけで妊娠すると言われている位の君もだいぶプレイボーイだと私は思うけどね?」
教授が入ってから黙って聞いていたレオンに、教授は喉の奥で笑う様にして言う。
「おいっ!良い話からの流れのオチがそこにつくのかよ!」
「おや、良い話だと言ってくれるのなら有難いね」
大袈裟にため息をつくと、レオンはバリバリと頭を掻いて足を組み直した。
「そろそろ着くな、準備してくるわ…」
窓から見えた景色にちらりと目をやってからレオンは立ち上がる。
「とりあえず俺は今からが一番忙しいんだからよっ」
言うや否や、耳のカフスを弾くと「おいへっぽこ!」と言いながら扉をくぐって廊下へと出て行った。
瞳だけで声が遠くなるのを見送ってから[#da=1#]はそっと目を伏せる。
「安心したまえ、君が目を覚まさなかったのを皆心配して気が立っていたんだ」
彼を纏う香の様に優しい声が[#da=1#]に注がれる。
再び眼を開けた[#da=1#]と、教授は視線を合わせる。
頬を撫でる様に、その声はとても穏やかで温かい。
言葉に体温を感じるなんて…――
[#da=1#]の瞳は僅かだが戸惑いの色を帯びる。
「彼も、トレス君も、もちろん私も…」
そこまで言ってから、教授は言葉を止める。
静かになった空間の中で、アイアン・メイデンⅡが風を切る音が静かに聞こえていた。
・・・
本来の目的から離れて、
急に教授夢になっているのが分からない…
でも好きだ(教授が…!)
・・・