- Trinity Blood -3章
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アイアン・メイデン艦内にて。教授?
「カテリーナ様にも既に伝えたけれど、[#da=1#]の状態は現在の所芳しくないわ…」
すっかり肩を落とした様子で泣き黒子が印象的なホログラム。
「否定。シスター=ケイト・スコット、コード“アイアンメイデン”」
それまで置物の様に壁際に佇んでいた端正な顔立ちの青年が急に言葉を発する。
ケイト、と呼ばれたホログラムの尼僧は置物のような――トレス・イクス神父の方へと顔を向けた。
「[#da=1#]・[#da=2#]神父は既に自己修復機能が働いている」
[#da=1#]は整った呼吸で安静状態にあり、血圧、脈拍などの数値がやや高いが許容範囲であるというのだ。
「そういうことではありませんわ、神父トレス」
以前より回復機能が落ちている事を既にケイトは誰でもなく本人から聞いている。
これは、教皇庁特務聖省特務分室を束ねるカテリーナ・スフォルツァ枢機卿も既に報告されている。
「神父[#da=1#]の事は、既に本人から報告を聞いていると思いますけれど…」
「それについては肯定…了解している。しかし彼は現在自己修復機能により加療が進んでいる」
「おいちょっと待て、なんだよ」
トレスとケイトの間に割って入る様にして、レオンは言葉を挟んだ。
「俺は聞いちゃいねえぞ」
言われてケイトはその手で口を塞ぐ。
ホログラムとはいえ意識は彼女そのものである。
立ち上がったレオンの後ろでは、この頼りない椅子でレオンの巨体を支えていたのかと気の毒に思ってしまうような座面の狭い小さな簡易椅子が立ち上がった反動からか僅かに床を移動する。
「レオン・ガルシア・デ・アストゥリアス神父、コード“ダンディ・ライオン”。質問の意図が不明瞭だ。回答を」
「イクス神父ちょっと…――」
この中で知らないのは恐らくレオンだけだということを察知したのか、シスター・ケイトはトレスに制止を掛ける。
しかしこのやり取りの中では、勘の良いレオンには気付かれてしまっただろう。
「嘘だろ…」
この事実は確かに本人から聞きたかったし、[#da=1#]本人も自分の口から説明するべき内容だったことが推測される。
気まずい沈黙が流れると、同時に静かにアイアンメイデンが空を切る音だけがその沈黙の中で唸っていた。
「悩んでいたよ…――」
どう伝えればいいか悩んでいた様子だったことが見て取れたと、”教授”が静かに伝える。
自分自身でも具体的に知ることができないからどう伝えればいいか分からないと、[#da=1#]が困惑しながら語ったあの日を思い出しながら。
背もたれの無い簡易の椅子へと巨漢はその口を閉じてしまうと再び腰を下ろす。
「未だ神父レオンには伝えていなかったのね…[#da=2#]神父――」
嘆くように言葉を発したシスター・ケイトは、目頭を押さえながらホログラムを切ってしまった。
「彼にとって、君の存在がここまで大きいとはね…最初は皆の体温を恐がってトレス君から離れる事がなかったのに」
片手ではまるで我が子を愛でる様に髪を撫でながら「私でさえもなかなか傍へ寄ってくれなかったよ」と彼は頼りなく笑った。
置物の様にぴたりと動かなくなった端正な顔立ちの小柄な青年は、言葉を発することは無かった。
痛々しく細腕に据え付けられた管の一つは彼の彼の治癒能力を助けており、別の一つは体内に侵入した菌の解毒を手伝っている。
あとの2つは何だろうか。
薄くかけられた毛布の裾から出ているその管を引き抜いてやりたい。
レオンはこの光景を見るといつも愛娘と重ねてしまうのだ。
幼く、美しく、愛しい娘。
勿論彼とは年齢も違うし病を抱えている訳ではないのだが。
治療が難しく難病を患った愛娘が管を通されているのを見ると、最早他人事とは思えない。
「よせよ教授…俺は何か大事な事を言われてないらしいじゃねえか」
最早察しはついてしまっているが。
口を尖らせて見せるが教授は困ったように笑いながら振り向いた。
「とても大事な話だがね、レオン君。君にだけ言い出せなかったと、私は思うがね」
喉の奥で一度小さく笑ってから「君の事を外見で判断する様な子供ではないよ」と続ける。
「彼は『そういう事』には最も過敏だし、[#da=1#]君の観察眼は一目置いているからね」
「俺の外見を例にするって事は教授は外見を踏まえて多少気にしているって事か…」
頭をバリバリと掻いてからレオンは壁にもたれて欠伸を1つ。
「まあとりあえず[#da=1#]が起きる迄、俺も小休止だ」
そういって乱暴に足を組むと、すっかり目を閉じてしまう。
その様子を見て口の端を僅かに引き上げてから教授は静かに扉へと向きを変えた。
「では私も失礼するよ、トレス君、ここは任せるからね」
「肯定」
歩き始めた背中へ、小柄な青年が短く返事を返した。
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