- Trinity Blood -3章
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扉の向こうで、カフスの向こうで。
平坦でしかし何か怒りを感じるような声と共に周囲がはじけ飛んだ。
「危ねえだろうが拳銃屋!!」
「戦域確保――
問うレオン・ガルシア・デ・アストゥリアス神父。[#da=1#]・[#da=2#]神父の損害評価報告を」
立ち上がる煙を掻き分ける様に素早く室内に入り込んだ青年がレオンに背を向ける様にして立ち止まる。
「大丈夫かじゃねえわ!俺の事的か何かだと思ったのかよ!」
「否定。卿は的ではないが神父[#da=1#]に臨戦態勢だった為、可及的速やかに判断を行い外敵であれば即座に排除する計算を行っていた」
「いやだからっ!それは結局俺は殆ど的になってたんだろうが」
「否定。確信は持てなかった為50対50だった」
「だからっ…いやもういいわ…それより"教授"は?」
冗談を言い合っている余裕はない。
「君たちのおかげで無事完成したよ、[#da=1#]君、レオン君」
教授、と呼ばれた紳士はステッキをついて落ち着いた様相でトレスの後ろからゆっくりと現れる。
黒の僧衣を纏ったその紳士はその左手に収めた小瓶をゆっくりと持ち上げていく。
碧眼が美しいその瞳の傍で手を止めると、手元では薄く色のついた液体がゆらりと動いた。
「待ちわびたぜ…」
大きなその掌は力を抜かず、レオンは安堵した。
幼いその容姿とは裏腹に彼の戦闘能力は非常に高いのだ。
[#da=1#]・[#da=2#]神父、コード”リジェネーター”。
経緯は本人も不明としており、一度死を迎えた筈なのだと話していた。
彼自身がその身を検体として差し出すことで研究者は様々な研究を行い、[#da=1#]は報酬を得ている。
自己回復能力が備わっている事で散々な思いをしている筈だろうが、彼はその能力の高さからトレス・イクスの様にその身を刻む事が『聖務執行の為ならば』としか思わない様だった。
苦痛に顔を歪める事はあれど、その身は幾度となく切り刻まれていると言っても過言ではないのだ。
抵抗を試みる様子と、それを抑え付けようとする様子が入り混じって苦痛の表情は色濃くなっている。
「一刻の猶予もないね、そのまま押さえておいてくれ給えよ」
傍へしゃがみ込み、ウィリアム・ウォルター・ワーズワース、”教授”と呼ばれた彼は[#da=1#]の血色が悪く血管の浮き出た筋を睨みつける。
落ち着いた声色で告げたものの、液体の入った小瓶に慣れた手つきでどこからか取り出した注射器の入った容器を取り出して素早く処置に必要な用事を済ませていく。
「おいその気持ち悪い色何とかならなかったのかよ”教授”…」
「『時間が無かった』としか言わざるを得ないね、効果は確認済みだから問題ないよ」
「信じてるぜ、」
[#da=1#]の中で何かが自由を求めて暴れようとしているが、しかし彼には自己回復機能が備わっているからか、体内で何が起こっているかは推測でしかないが蠢く何かはその行動を抑制されているのだろう。
苦痛の表情を浮かべながらも、叫ぶ事は無く耐え抜いているこの精神力には正直感服する。
勿論自分自身も、兵士としての過去はある。
自分を保つ事のそれは拷問にも等しくて、レオンの額にも薄らと汗がにじんだ。
「私の大事な『友人』をこのように痛めつけたんだ。絶対に許さないよ」
表情こそ柔らかいままだがワーズワースのその怒りに満ちた呟きを、しかしレオンは聞き逃すことは無かった。
教授にとって、[#da=1#]は紅茶の時間を共にし、言葉の一つ一つを丁寧に考える所謂知識を共有し合う大事な友人である。
漏れ聴こえてしまった言葉に蓋をする余裕もない程に、怒りの感情が強く湧き出ている様子だった。
トレスの耳にもおそらく届いているだろう。
僅かに機械音が鳴ったからだ。
トレスは警戒の手を緩めないままだが、やはり[#da=1#]を心配しているのだろうか。
血の気がなく白い首筋に浮き出た血管が妙に痛々しく脈打っている。
正確に針を打ち込むと、押さえた部分が掌の表面を通しても分かる様にその身を収縮させていく。
レオンか、ウィリアムか、トレスか。
それとも[#da=1#]本人かはいささか不明だが奥歯がギチリと鳴る不快音が耳へ届いた頃。
ドロリとした液体が、[#da=1#]の影からまるで煮え湯の如く湧き上がってきた。
溺れてしまうのではないかという程に波打つ[#da=1#]の影からはすっかり溢れ出て、その液体が激しくもがいている。
まるで海に投げ出された遭難者が、新鮮な空気を求めて水面に向かって手足をばたつかせているかのように。
しかしその水面にはかき分ける事の出来ない分厚い氷に阻まれていて、求めるものを得られずに水面下で苦しむ姿を安易に想像させた。
これ以上に苦しみを表現する言葉が見付からない。
僅かに間があったのち、それはぼんやりと人の形作っていく。
レオンは横目でそれを確認しながらもすでに異物が体内から排出し、まるで操り人形から糸が切れた様にぐったりとして横たわっている[#da=1#]へと意識を向けていた。
「発射」
激しく火を噴く愛銃に成す術なくその銃弾を受けるドロリとした物体はみるみる形を成していき、次第に色づいていく。
トレスが放った銃弾も色づいた個体を成しつつある表面にずぶりと刺さって奥までは進まずに留まっているようだった。
「辞め給えトレス君――この様な衝撃緩和要素の高い、所謂ゼリーブロックの様なものには君の銃弾は殆ど意味を為さないよ」
ゆらりと立ち上がった教授は間もなく個体となる、蠢く物体へと向き直った。
「肯定」と返答し銃声はぴたりと止む。
トレス自身も理解をしている様子だったが、銃口はゼリーブロックといわれた、間もなく人型となるであろう物へとピタリと向けたまま。
並の人間であれば完全に支配をされていただろう身体をレオンは静かに抱え上げる。
意識が無い為か、その腕に抵抗なく収まった[#da=1#]は痛々しい表情のまま、浅くだが呼吸をしている。
「拳銃屋、こいつ任せたぞ?」
「肯定」
言うが早いか、レオンは風の如く姿を消す。
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