- Trinity Blood -3章
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研究学園都市・中。教授
「今日は随分と喋るんだな?」
僧衣を隙なく着こなした青年の後ろで欠伸をしながらドシドシとその存在感を示すように歩く、大柄な男に言われた言葉。
まるで決められているようにまっすぐに廊下を歩く小柄な青年と同じ僧衣を着ているから彼が神父であることは間違いがないのだが、一見すると神父とは言い難い風貌の浅黒の男。
そんな2人に前後を護られる様に歩きながら、ぼんやりと、その言葉を宙に漂わせる。
必要以上に言葉を交わすことは無いが、そう言われたのだ。
まるで風が吹くように、雨が降る様に、太陽の光が降り注ぐように、月が照らすように――
交わす言葉などなくとも、彼にはこの『言葉』が伝わってしまうのだろうか。
「っと、」
急に後ろから左肩を掴まれた。
僅かに声でも漏れただろうか、小さな悲鳴を上げたかどうかも分からない位の出来事。
すぐ目の前に迫った背中が視界を殆ど遮っている。
ぼんやりしていたのか、直ぐ前を歩くトレスに突進するような形でぶつかりかけたのだ。
「損害評価報告を、神父[#da=2#]」
「寝不足か[#da=1#]?」
同時に飛んでくる言葉。
心配されているのは理解出来る。
大丈夫、だけど何か――
違和感が突然襲ってきた。
小さいながら上げてしまった悲鳴に、自分自身が一番驚き、困惑している。
何かが不自然だ。
トレスやレオンと同等のスピードで歩いていた筈なのだ。
憑りつかれた様な違和感を感知してか、体内のソレを排除しようと蠢き始める。
心拍数が上がっていくのを感じる。
鼓動が早くなるにつれて、身体が何者かに支配されているような違和感を理解する。
「拳銃屋、…先に行ってろ」
「否定――教授が彼の同行を強く希望している。彼は同行させる」
静かに、平坦に言い放つ彼の口調にはしかし、静かな怒りを含ませている。
「いいから行けって、直ぐに行くから!」
レオンは小柄な青年の言葉から[#da=1#]を離すように、ただし慎重に僧衣の裾を強く引っ張り彼を自分へを引き寄せる。
足が踏みとどまったのか彼の手がそうしたのか、大柄な男のその胸元へ納まることは無かった。
浅黒の胸元が視界に広がると何を意識したのか自分でも理解が出来なかったが、鼓動がやたらと煩くなった。
「問う、今[#da=1#]・[#da=2#]神父はぶつかりかけたが衝突はしなかった」
ガラスのような瞳がまっすぐレオンを睨みつける。
「彼には損害はななかった筈だ」
耳に届くか届かないか僅かな機械音がレオンにははっきり聞こえる。
どうやらこの端正な顔立ちの小柄な青年はレオンのその態度に対し怒りの色を向けている様だ。
「ぶつからなくたって問題の一つや二つ出て来るんだよ!」
何と伝えればいいかと頭をバリバリと掻きながらも、浅黒で大柄の男性は言葉を返す。
自分でも何故かは分からない。
ただこの幼い神父は、幾つもの秘密を持っているのだ。
彼を理解するうえで秘密の数は多く今でも計り知れないが、小さな動揺も見逃せない。
「すぐに行くから何とかうまく言ってくれよ、こいつだって悪気はねえんだ」
大柄な長身の男性の傍へ立つと更に小さな印象を持つ小柄な神父は、「すみません」と何とか絞り出したような声でそう言った。
「――肯定。ただし、猶予はない。可及的速やかに合流する事を推奨する」
言い終えるや否や、トレス・イクス神父は無駄のない動きで目的地へと向き直り、まるで決められているかのように錯覚する歩幅で音もなく前進していく。
「恩に着るぜ…」
最早余裕なく膝から崩れ落ちんばかりに脱力した[#da=1#]を引っ張り上げる様にして、レオンは手近な部屋の扉を開けた。
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