- Trinity Blood -3章
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「…ガルシア神父」
返事を期待してはいなかった。
消えるような、否、風に消えて欲しかった言葉。
彼に何と告げたらいいのか。
出来れば一番知って欲しくない。
「ん?」
彼の耳は、とてもいい。
ついに口をついて出てしまった彼の名前は、その耳に届いてしまった。
「いえ…すみません」
「おう、耳にタコが出来る位呼べよ?」
優しき紳士。
粗雑な態度ばかり見せるから、周囲には勘違いばかりさせているが。
本人がそれでいいというならばそれはこちらが口を挟む事ではないのだろうが、その分疑問は募るばかり。
あまり粗雑な態度を[#da=1#]の前で見せる事はない。
紳士顔負けの行動を実に自然に遂行できる。
他の同僚の前でこういったことをしない方が、不自然に見えるのだが。
最近、少しずつ体温に慣れてきた。
少し前。
レオンとトレスがここへ来る前、少しだけ教授の手に触れた。
気付いていただろうか。
うたた寝している教授が手に持ったままのパイプが危なくて、添える様に静かに手を置いて、パイプを安全な位置に戻す。
たったこれだけの事だったのだろうが、しかし実に神経を使った。
相手の体温を感じながら、相手を起こさないように、心臓の音が高過ぎて耳まで上がってきたように感じた。
真摯に接してくれる教授でさえ、時折恐怖を感じてしまう自分が憎くてたまらない。
でも、少しの間なら人に触れる事が出来たという成長の証となった。
これは、会う度に練習に付き合ってくれる、一見粗雑に見える紳士のおかげだといえる。
「なあ[#da=1#]」
幼い神父は言葉を発しなかった。
代わりに、レオンの方へと瞳を向ける。
「今日は随分と喋るんだな?」
重なり合った瞳は、そう。
まっすぐにレオンを見るのは数ヶ月振りだ。
浅黒の肌を持つ神父は小さな声で「独り言より、俺と話そうぜ?」と言って笑う。
言葉を発しなかったとは言わないが、言葉を沢山連ねた訳でもない。
沈黙が続く間、脳裏に言葉を思い浮かべ連ねたことは嘘とは言い難い。
心の声が聞こえるとか、シスター=ノエル・ボウの様な能力はないだろうに。
でも、確かにそうだ。
今日は随分と思考した。
レオンの瞳には何かが見えているのだろうか。
「行く気が起きねぇけど、教授の所にはさっさと顔出しに行かねえとな」
教授が「早く来給えよ?」と言っていた言葉を思い出す。
「お前が居ないとつまんないなんて、子供じゃあるまいし…」
と口先を尖らせるレオンに、[#da=1#]は少しだけ口元を緩ませた。
実際にはそのように見えただけなのだろうが、レオンの表情はみるみる明るいものになる。
「な、今の、内緒な?」
僅かに頬に触れた指先が、とても優しく感じた。
不意を突かれたとはいえ、指先に悪意はない。
この体温が、心地よく感じる日が来るのだろうか…?
この命の炎が、尽きるまでに。
*
上中下と書き進めていた研究学園都市ですが、加筆修正を行っている内に段々と説明が足りない感じになってしまっていました…!
どこに入れるか悩んだ結果ここに滑り込ませました…!
研究学園都市、ここからまだちょっと続きます…!
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