- Trinity Blood -3章
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
聞こえた銃音なんて、聞こえなかった事にしておこう。
この音の発する先に誰がいるのかなんて、下を見るまでもない。
しかし何故発砲音が聞こえるのかは分からない。
考えても分かる事ではないが、別に知りたい訳ではない。
銃声の音を聞けば、誰が放ったかなんてよく分かる。
よく聞いた音は、聞き分けられる。
視線の先にある太陽の光を受けて白く輝く研究施設をじっと見つめながら、[#da=1#]はぼんやりと風を受けている。
普段なら妖しげに見える研究都市の中心であるあの白く聳え立つ塔も、太陽の光を浴びて今は鮮やかにその姿を見せていた。
これだけ高さがあると、風の勢いが強い。
後ろから声が聞こえた。
「暑くねえか?」
声の主は分かっている。
少しだけ顔を上げる。
数時間前に再会したばかりの同僚。
1時間ほど眠ってから、食事に出掛けた筈の彼から問いかけられたものだった。
夕方になるまでこの場所は日が差し込まない。
加えて、この研究学園都市は実に気温や湿度に気を遣って建てられている場所だ。
今も外気温よりも20度程の誤差があるだろう。
しかし、日の光はやはり視界に入るだけで暑く感じると独り言のようなぼやきは聞き逃さなかった。
朝に教授がくぐって以来、自分以外が出入りをした記憶は全くない。
じっとその場で風を受けている彼に、しかしレオンは関係ないといった様に笑った。
「きっとさ、この街は沈むんだろうよ?」
[#da=1#]は答えなかった。
結末は見えている様に思ったから。
教授を表立って歩かせ、他の者は裏での調査に明け暮れる。
危険な物質が外へ持ち出されない為に、秘密裏に爆発物が各所に取り付けられた。
レオンの専門分野である。
危険物質が液体でも気体でも、その効果に対し一番耐性のあるだろうトレスが召喚された。
つまり、危険物質を使ってもその効果にあまり関係ない彼は適任なのだ。
そして自分。
毒性の物質であろうと自己回復能力のある[#da=1#]には「負傷者」となっても何ら大きな問題はない。
とはいえ。
最近は少し、回復能力が低くなっている。
少し前から気が付いてはいた。
どうして良いか分からなかった。
確実に近付いている終幕に、[#da=1#]は戸惑うことはほとんどなかった。
「教授の所へ行くの、少し遅くなってもいいかな…」
声のする方を見れば、レオンは手すりに肘をついて白く妖しい研究施設をその瞳に映していた。
[#da=1#]は答えない。
戸惑いの存在は彼。
隣で大きな欠伸をしているこの大柄な男に、この事をどうやって告げるか未だに悩んでいた。
カテリーナ=スフォルツァ枢機卿、つまり直属の上司には診断書を医者に書いて貰い、既に寿命が近い事は告げている。
傍に控えていた心穏やかなシスター=ケイトは、枢機卿との話の間に静かに涙を流して交信を切ってしまった。
枢機卿もシスター=ケイトも事前に口外しないことを約束してくれている。
彼女達の言葉には偽りはないだろう。
.