- Trinity Blood -3章
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目覚めた見上げた天井は低く、裸電球がぶらりと垂れ下がっていた。
「…」
長期滞在目的で取ったこの安宿も、標的が動くという連絡は未だ来ない。
「…拳銃屋、どうだ?」
「異常はない。2061秒前に来た連絡事項だ、ガルシア神父。可及的速やかに読む事を推進する」
渡されたのは一枚の用紙。
「重要事項か?起こして良かったんだぜ?」
胸元をバリバリと掻きながら上体を起こし、書類を残った手で受け取ってから欠伸を一つ。
ベッドの端に座って書類に目をやると、新聞や本に印刷された規則的な間隔で文字が羅列していた。
「…明日、この時間ね」
「肯定。アベル・ナイトロード神父より合図があれば行動を開始する」
「了解。しかし明日で三週間か…今回は実行までにえらく時間が掛かる作戦だな」
手元の床頭台に置かれた灰皿に紙を投げる様に置いて、傍の煙草とライターを掴む。
「肯定。神父アベルは秘密裏に標的にされているアジアナ・ループの保護を優先して慎重に行動をしている」
無機質な声が狭い部屋に響く。
「だな…」
彼の優しさは知っている。
それだけに今回の任務もアベルはとても慎重だ。
窓の外を監視し続ける小柄な神父を見ながら、一つの疑問が生まれ「おい」と声を発した。
「彼なら神父アベルと接触中だ」
レオンが問う前に。
「…お前いつから心を読める様になったんだ?」
「卿の重要事項は3つ。『娘』『同僚』『女』」
「ちょっと待て!お前何か誤解してねぇか?!俺はなぁ…!」
「卿の重要事項に間違いがあれば訂正を」
「大有りだっ!最後の『女』は違うだろ!」
「女性を発見しては声を掛けていると記憶している。違うのであれば訂正を」
「ぐ…っ」
「訂正を。ガルシア神父」
「…言うじゃねぇか拳銃屋」
最早ぐうの音も出ない。
手に持ったまま忘れ掛けていた煙草を思い出した様に咥えると、レオンは窓の外へと目を向けた。
「[#da=1#]はまだ帰って来ないのか?」
「肯定。卿が起きる309秒前に連絡は入ったがまだ帰還しない」
言われて時計を見ると、起きてからの分数を足して計算すると7分は経っている。
「…結構経ってないか?」
「443.81秒。許容範囲内だ」
言われてみれば、と改めて時計を見遣る。
追っ手が無いかとか、慎重に考えたらそうはなるが。
「許容範囲…ね」
そう思う様に心掛けながら、レオンは咥えたままになっていた煙草に火を点けて煙を吐き出した。
吐き出した煙が低い天井に届いた時、レオンの腹の虫が盛大に鳴った。
「あー…そういやもうこんな時間か。正確な腹だな全く」
レオンは呆れた様に自分の腹をさすり「ま、健康な証拠だな」と頷いた。
僅かな機械音と共に立ち上がったトレスを目で追う。
「間もなく哨戒に出る。[#da=1#]・[#da=2#]神父が帰還したら、食事を摂る事を推薦する」
「了解。怪我すんなよ」
「肯定」
返事を返し、一呼吸置いてから歩み始めるトレスを見送り、レオンは煙草の煙を盛大に吐いた。
開けた扉に規則正しい歩調で消える同僚が廊下の向こうで足を止めた。
「?」
止まったトレスの足音に気が付いて扉へ向かう。
殺気は無い。
扉を開けると、トレスと言葉を交わしている少年。
「何してんだ?」
「問題無い。少年が飛び出してきた」
「ごめんね、お兄ちゃん」
「損害評価報告を」
「そ…ん?」
「大丈夫かって聞いてんだよ。ったく、いちいち難しく言い過ぎるんだよお前は」
「否定、俺は規定事項に従って聞いている。俺が間違った発言をしたら訂正を、レオン・ガルシア・デ・アストゥリアス神父」
「…お前最近俺で遊んでないか?」
「否定。では哨戒に出る」
「どうだかな。ったくよー」
背中に半ば投げやりで言葉を投げかけながら少年へ向くと、少年は不思議そうに自分を見ていた事に気が付いた。
「悪いな、怪我は?」
「はい、大丈夫です神父様」
僧衣を着てるだけで随分と警戒を解かれる。彼の過去や、トレスの正体などこの純朴な子供には掴めないだろう。
「あの、神父様?」
「ん?」
服の端を引っ張る少年の傍へしゃがみ込みと「どうした?」と幼い瞳を覗き込む。
「これ」
笑顔で差し出されたそれは、小さな包み。
「ありがとな」
包みを受け取り子供の頭を撫でてから立ち上がり、笑顔を作って子供を行かせてレオンは自身の泊まる部屋へ戻った。
扉を閉めてから、笑顔は消えた。
どうしても気になった。
「…」
見た目が少年だとしても、『少女』であるという事実は隠せない訳だ。
親心…というべきなのだろうか。
複雑なまでに、レオンは頭を左右に振って自問自答を繰り返す。
「あー…くそっ」
閉じた扉を再び開けて。
開いた空間へ向けて、荒々しく床を踏んだ。
その瞳はもう、赫の瞳を持つ者を求めて蠢く獣の様だった。
*