- Trinity Blood -2章
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人は一人で居る事をあまり赦されない。
例えば独りで居る事が一番今、安心できるのに。
何故今独りで居たいというこの気持ちを神は理解してくれないのか。
主よ…貴女は壁ばかり用意する
あまり高い壁ではないが、何故かいつも壁が目の前に用意され積み上げられている様な感覚。
でも例えその壁を壊したり乗り越えた所で、神は褒めてくれないし褒美をくれる訳でもない。
ああ『試練』とは。
扉の向こうから、ノックが聞こえる。
返事をするのを躊躇ってしまう。
しかし起きている限りそう言う訳にはいかない。
そのノックは何故か、返事を待ってくれるノックではなかった。
「どうせ起きてんだろ?邪魔すんぞ」
返事を待たない同僚。
一応ノックしてくれるだけ親切なんだろう。
「わざわざこの俺様が顔を見に来てやったんだから、面会謝絶だけはお断りだぞ?」
ヘッドボードへ身体を預けてぼんやりと窓の向こうを見上げていたらしい少年に向かって、真っすぐ向かってくる。
確認もせず窓側へ回り込んで隣に座ると、同僚は「まあまあの距離歩かされてんだよこっちは」と一息ため息をついた。
病室では煙草は吸えないのに手には煙草を持って、指先で転がしている。
吸えないのは分かっているのに、手元が寂しいのだろうか。
ここまで来る間に、誰にも注意されなかったのだろうか。
大柄で浅黒の、僧衣を纏っていなければおよそ神父とは呼べない同僚、ただ彼の能力はとても高く、学びも多い事から同行する様にカテリーナからは命じられている。
神父には見えないが一応神父である。
せめて支給されたその僧衣をきちんと着こなせば、外見だけでもその様に見えるだろうに。
だらしなく僧衣を着こなしている所をみると、周囲への印象はあまり気にならない様だ。
覗き込む様にして「何考えてるか、当ててやろうか?」と笑う。
この同僚は、何故か時々子供っぽい表情で笑う。
返事を待っているかの様な笑顔。
扉を開ける時には、返事を待たなかったのに。
何故か好きだなと思ってしまうこの笑顔、可愛いと思うのは、男性にとってはやはり失礼な話なのだろうか。
「人は見た目の、いわゆる『外見』の印象しか信じない――絶対にだ」
見掛けが人の判断を見誤らせる。
「第一印象や直感は別の話だけどな」
こういう話は好きだ。
身体ごとレオンの方へ向いた。
自分の方に向いた事を確認すると、話を続ける。
「『外見』は『第一印象』とは似て非なるものだ。ま、今回は外見の話」
そこまで丁寧に前置きをしてから。
突然「例えば拳銃屋とへっぽこだ」と、どちらも同僚を例に挙げる。
「2人を並べてみろ。どっちが仕事ができるかは『外見』だけでいうと言うまでもないだろ?」
まあ確かに。
雑に纏めた長髪と、隙なく整えられた短髪。
頼りない口調と、端的で感情のない口調。
落ち着きのない態度と、無駄のない行動。
誰がどう見てもトレス・イクス神父の方が印象は良く、仕事の手際も良いと思うだろう。
ただ蓋を開けると、目的達成の為に破壊行動を一切容赦なく行うトレスの方が見た目に反し強暴で危険分子である事はまず間違いないだろう。
この時初めて人は『判断を見誤った』と気が付き、頭を抱えるのだ。
上司であるカテリーナもこの問題に於いては常に頭を抱えている。
「お前さんが今考えを巡らせた事、それが『外見』の話だ」
顔を上げると、レオンは煙草を咥えていた。
火はついていなかったが。
「能ある鷹は爪を隠すんだ、俺様が良い例だろ?」
どこからくる自信かは分からないが。
でも何故か納得できる。
レオンのこの思考がどこまで通じるのかは分からないが、[#da=1#]にとってその考えは新しく、そしてとても興味を引く話だった。
参考書等を片手にひたすら問題を解くのとは違い、人の持つ思考回路というのは目に見えないだけ聞けば聞く程本当に面白い。
折角外見の話をしている目の前の神父は、難を言うならば粗野で女好きというところが、彼の存在を引き下げているのは間違いないと思うが…いや、これは外見というより印象の話かも知れない。
難しい。
そんな事を考えていると、突然隣の大漢が身体を大きく伸ばす。
「だーっ…しかし嗜好品が取り上げられるのは辛抱たまらん…早くこんな所から出ようぜ、タバコ吸わせてくれー」
両手を投げ出してベッドへと倒れ込む。
子供みたいな仕草も、きっと見た目だけでは分からない。
普段同僚にも見せないと思われる姿は、[#da=1#]にとってもあまりお目に掛かれるものではない。
思わずレオンの瞳を覗き込んでしまう。
血の様な美しい赫の瞳が、こちらを覗き込んだ。
普段器用に隠して、見えないその瞳がこちらを向いている。
こんなに綺麗なその赫い瞳なのに。
何か思う所があるのか、見られる事に恐怖を感じている様だ。
しかし何か思案しているらしく、赫い瞳がすっかりこっちを向いている事は、頭から抜けている様だ。
上から覗き込む様にしてレオンの方を見る幼い少年に「今なら胸に飛び込んでもいいぜ?誰も居ないし」と、こちらに向かって手を広げてくる。
「――あ…いえ」
思わず身体を引く[#da=1#]の反応が可愛い。
喉元で小さく笑ってしまった。
「遠慮しなくてもいいぜ?」
その瞳は、妙に優しく。
引き込まれそうになる。
しかし。
それ以上に、別の何か強い力が[#da=1#]を引き止めている。
思い留まったらしい事を確認すると、大漢はベッドに茣蓙をかき、膝に自らの肘をついた。
前髪で器用に隠れた[#da=1#]の瞳が、今度は遠慮がちにちらりと覗き込んできた。
その様子を、しかし金色の瞳はずっと見詰めている。
赫い瞳が何かを言いたげにしているが、言葉が届く事が無かった。
まだ少し、心の扉を開けてくれることは無いのだろうか。
気恥ずかしさを感じたのか結局レオンから目を逸らしてしまった。
「ま、お前さんはすっかり俺の内側しか見てないからな」
ぼさぼさと雑に髪を伸ばしたままの頭をバリバリと掻いて立ち上がる。
咥えた煙草を口から離して「今更外見の話は無用だったかもな」と言って静かに笑った。
四角く枠切られた窓は小さく、お粗末な空しか広がっていない。
それでも近付くと空だけでなく、街の様子も見えて来る。
ここまで歩いてきた道も確認できた。
ふと下を向くと、先程迄乗っていた車が丁度門へと入ってくるのが見える。
車の左右の幅が寸分違わず停まる。
車を降りた途端足早にこちらに向かって歩き出したトレスに手を上げると、トレスは一度だけこちらを見た。
窓は閉まっていても、レオンの行動は把握できた様だ。
手を振るなどの愛想をするようなタイプではないが、レオンには十分だった。
「もうすぐ拳銃屋も来るぜ」
レオンだけでなく、トレスが来る事など予想していなかった[#da=1#]には、驚きが隠せなかっただろう。
しかしそうだった。
トレスとは任務の、いや調査の約束があった。
こうやって同僚と過ごす時間がとても楽しかった事を思い出してしまっていた。
「会いたいだろ?」
改めてそう聞かれると戸惑いもある。
簡単には頭を縦には触れない。
「少なくとも、あいつはお前さんにめちゃくちゃ会いたいらしいぜ?」
たまらず笑ってしまったがレオンには今、トレスの気持ちが分かる。
無事だと分かっていながら、無事を気にして慌てていた自分の心境と重ねてしまっていた。
今の感情に何という名前が付いているのか不安なのか、困惑した表情でいる少年を、レオンは妙に微笑ましく見ていた。
喜怒哀楽の出し方が不器用で、心の扉を塞いだまま時々こちらを鍵穴から見ている様な感情が、育っているという事だから。
と。
こちらに近付いてくるらしい規則的な歩行音が聞こえてくる。
「来たか」と呟く。
ぴたりと止んだ足音から一呼吸置いて扉がノックされた。
「失礼する」
「おう、やっと来たな?」
入って来たのは小柄で端正な顔立ちの青年。
「損害評価報告を、[#da=1#]・[#da=2#]神父」
「見た通りだぜ拳銃屋。大丈夫だよな、[#da=1#]?」
笑みを浮かべたレオンは、[#da=1#]の顔が僅かに微笑んだ様に見えた。
!読んだよ!
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20220215
加筆修正を行いました。
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一応どれも短編で読めるように心掛けていますが…
病院に向かう途中で
の
続き…みたいなものです。
トレス君好きな方最後だけですみませんでした…
管理人はトレス君から始まった筈なのに今ではレオン好きという…
あの毛むくじゃら…
好きだからいいんです!
声とか!
…ん??