- Trinity Blood -2章
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加療名目で入院してから半月過ぎた頃。
トレスが迎えに来て、療養期間は終了した。
最近違和感がある事が気になっているが、入院中も、トレスにもそれを言う事は無かった。
身体に起こった違和感。
歩くのも食べるのも、話をするのも支障はない。
最近"力"を使った後に眩暈が続いたり、気を失う回数が増えた。
今も視界が揺らいで世界がぐにゃりとなって軽い吐き気に襲われている。
トレスが運転する車の助手席でぼんやりと景色を眺めていると、アベルの腹が盛大に悲鳴の様な音を立てて、難しく考え込んでいた思考は一旦停止した。
「…すみませえぇぇん…」
腹の虫が…と力無く笑ったアベルに「腹に虫は居ない。訂正を」とトレスが冷たく言い放つ。
「いやですにぇートレス君、これは表現の一つで「肯定。しかし医学的生物学的に見たとしても腹に虫は居ない」
「意地悪ぅ…」
「否定。俺は事実を述べただけだ。意地悪とは言葉が違う」
「ですから、これはここ4日位まともに食べていにゃいから…」
呂律の回らないアベルと車内で言い合いを始めるトレスの言葉を聞きながら、[#da=1#]は遠くなりかけた意識を何とか取り戻していく。
「卿は帰還して間もなくこの任務に就いた。目的地に到着したら適度な補給をする事を推奨する」
「はあぁい」
ひらひらと手を挙げて返事を返してから、「で、あの」とひょっこり運転席と助手席の隙間から「今回の任務って?」と声を掛けてきたアベルに「書類は神父[#da=1#]が今読んでいる筈だ」と返すと、頼りなく見える長身の神父は言うまでもなく自分に瞳を向けてきた。
「すみません、少し…眠くて…」
まだ読めていない事を謝ろうと身体の向きを変えたところ、強い眩暈が[#da=1#]を襲う。
突然揺らいだ景色に、小さく呻いて声を詰まらせた。
「眠いって…」
アベルのひどく心配そうな眼差しを受けて、[#da=1#]は視線を落とした。
きっと、彼の事だから今の眩暈や自分が漏らした呻き声も気付いただろう。
「あと367.92秒で目的の場所へ到着する。可及的速やかに書類に目を通す事を推奨する」
答えに困った幼い神父をまるで庇うかの様に声を掛けるトレス。
しかし端正な顔立ちのまるで硝子球の瞳の神父を見ても、彼からはちらりともこちらを見ることは無かった。
遮った言葉の意味が分かったのか、[#da=1#]が質問の答えを言えなかった事に気を使ってくれたのか、彼の心中は分からない。
しかし、この場で過保護なまでに[#da=1#]を心配する。
「ね、大丈夫なんですか?私、カテリーナさんに言った方がいいと思うんですが」
「問題ありません。大丈夫です」
心配してくれるのは嬉しいが、その優しさが[#da=1#]の心を幾度となく傷付けている事に気付いているのだろうか。
心を持たない機械は、心を持った様な複雑な思考を巡らせる。
俺は彼を心配しているのか?
否。
心の無い俺に彼を「心配する」等という思考回路は無い筈だ。
勿論トレスには自己学習能力が在るわけだから、こそ「心配する」という「人間的な思考回路」を生み出せる可能性は、有り得ない話ではないとさえ思えて仕方が無いのだが。
…俺は機械。人ではない
隣に座る幼い少年へ僅かに瞳を向けてから、トレスは再びガラスの向こうから迫っては通り過ぎる景色に瞳を向けた。
また少し痩せた様に思う横顔が、疲れた様子で書類に目を通していた。
「そうだ。ね、目的地に着いたら何かお腹に入れませんか?」
今にも折れそうな細い身体から、悲鳴の様な腹の虫が聞こえる。
アベルの、彼らしい優しさであるという事は[#da=1#]自身もよく分かっている。
だが、見透かされたようなあの瞳がこちらを見る度に恐ろしくて仕方が無い。
神に背を向けた自分が映っている様で堪らなく恐怖を覚えるのだ。
「了解した」
「お金は大丈夫なんですか?」
「ま…紅茶位なら…」
力無く笑うアベルはきっと誰の目から見ても、恐怖を覚える様な人ではないだろうとさえ思う。
書類を手渡してから「何かセットで頼みましょうか?」と言うと、アベルの顔は僅かに生気を取り戻したように見えた。
「主よ!神は身許に!」
「否定。彼は神ではない、人だ。訂正を」
「ですから、これは表現の一つでして「それについては了解している。しかし彼は人だ。神という表現は間違っている」
再び討論を始める2人の声を聞きながら、[#da=1#]は窓の方へ瞳を向ける。
「…」
鞄に入れた古新聞は、もう少し眠らせておこう。
あと3分程の旅を賑やかな2人に耳を傾けるのも悪くはない。
***
私は車内で読んだりすると嘔気に襲われます←
でも時間が勿体なくてつい読んでは後悔しています←