- Trinity Blood -2章
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
廊下を渡るその足はいつになく足早だった。
部屋には鎖で拘束されベッドで寝かされたままの幼い少女が居る。
なるべく早く拘束を解いてやりたい。
急いで部屋の扉を潜り、奥へと向かう。
ベッドのある奥の部屋へ足を踏み入れた時。
「あ、’教授’!」
幼い子供の様な優しい瞳――冬の湖色をした碧眼がこちらに向いた。その表情は見ると女性子供であれば一息で騙されてしまいそうな優しい表情ではあるがしかしこれが果たして’教授’に効果があると言えばそうではない。
「やぁアベル君。…君、些か子供っぽくなったね?」
聞くや否やぐるりとこちらに向いたアベルは教授が何か言うのを待たずに「もう、酷いですね’教授’!私立派な大人ですよ?」と頬を膨らませる。
だからそういう所を子供っぽいというんだがね。
心の中で呟く。
アベルの奥にいる小さな少女が、ベッドでその身を拘束されていた。
あまり広くない筈のベッドも、彼女がいると大きく見える。
視覚効果とでもいうのだろうか。
「私は君の後ろのお嬢さんに用があるから、その場所を変わってくれないかい?」
’教授’に言われ、すぐに立ち上がる長身で頼りない神父は少し後ろへと下がった。
何か手に持っていた様な?
しかしその事には触れず’教授’はアベルが座っていたベッドサイドの椅子に腰を下ろし、狭い筈のベッドで拘束されたままの少女へと「気分はいかがかね、[#da=1#]君?」と、翠色の瞳を向けて笑い掛ける。
戸惑いを隠せない表情が’教授’へと向いている。
その瞳は薄く茶色を宿しているが中心は赫く――まるで鮮血の様だ。
「君は…お茶は好きかな?」
枷が重々しくガチャリと音を立てる。
大きな瞳が’教授’の方へ向いて。
何を問われたのか意図が分からないと言った表情に、しかし’教授’は翠眼の美しい瞳で、目の前の子供の瞳を覗き込んでいた。
何かを言いたそうな口元が、声もなく喉の奥で何かを言っている様な。
言葉を紡げない訳ではない筈だ。
彼女は初対面の自分に名を名乗り『心が痛い』とはっきり答えた。
この数週間で彼女は何かが変わってしまったのだろうか。
右手の枷を重々しく引きずりながら’教授’の瞳を覗き込んで。
どうかしたのか、など聞く必要がなさそうだ。
上半身を起こした少女は、そこでは留まらない。
手を伸ばし掛けたところで。
少女のその手は上がる事無くただ僅かに声を漏らして、身体を寄せようとして鎖に阻まれ引っ張られる様にして体勢を崩した。
崩れたその身体はベッドの上で体勢を整える。
口元で「ふむ」と呟くと、少し離れたサイドテーブルに置かれた枷の鍵を手に取って再びベッドへと戻る。
「これは不要の様だ」
ガチリ。
重々しい音を立てて。
枷が外れる。
突然手から重みが消え、少女は再びベッド上でバランスを崩した。
勿論拘束されている訳だからベッドから落ちる事は無いが――’教授’は手を出す事を戸惑った。
いや、手は出さなかった。
書類には『体温を苦手とする』と書かれていたのを覚えていたからだ。
酷だとは思ったが。
上半身を持ち上げる様にしてこちらを向いた彼女は、見上げる様に’教授’と瞳を合わせてきた。
赤く鮮血の様な瞳の中に’教授’が映り込む。
碧眼の瞳が微笑むと。
ふと。
赤い瞳の持ち主は何かを思った様子で首を僅かに傾げて視線を逸らす。
研究者達の考えている事は分からない。
自分自身も研究者の端くれといえるのだろうが。
しかし研究者達が危惧していた暴力的な一面もない。
悲鳴を上げたり目を逸らす事が無い事を不審に思ったのか、大きなその瞳は改めてこちらを向いた。
彼女はきっとこうやって瞳を覗き込もうとしていただけなのだろう。
先程より少し遠慮がちに、しかし集中しているのか瞬きは先程よりも少なかった。
もしかしたら、彼女は少し目が悪いのかも知れない。
もしくは視力が安定していないのかも知れない。
仮定をするには、まだ彼女の資料は十分ではない。
無言でその瞳を覗き込む動作に、この血の様に赤いその瞳に怯えたのか。
『何か呪いでも掛けられる』と不安でも、よぎったのだろうか。
思い返してみれば、初めて保護されてから暫く。
幼い少女はじっと自分の瞳を見ていた。
何を見ているのか全く、見当もつかなかったが。
堪え切れず「ふふ」と、口元で笑ってしまった。
「私の顔に穴が開くまで見詰めるつもりかい?」
紳士が向けた笑顔に、その大きな瞳が何度か瞬きする。
そして少しの間を置いて怯えた様子で肩を寄せて、身体ごと後退った。
その様子に、困った表情で「流石に顔に穴が開くのは困るからね」と続けた。
僅かに笑顔らしいものを向ける少女のその表情を見て。
’教授’の中で彼女への危険性は段々と薄れて行く。
彼ら研究者が、この娘と真剣に向き合うつもりが無かっただけじゃないか…?
ただの、被験者として扱っていただけでは?
さてそうなると。
「お茶でもどうだい?」
この幼い少女と仲良くなる方が、きっとこれからのお互いの生活をより豊かにするだろうと’教授’は思い至った。
このお嬢さんはきっと、奇異な目を向ける大人達に心無い扱いを受ける事になる。
カテリーナ・スフォルツァ枢機卿ははっきりと「『果たすべき事』があるから彼女は当面死を望まない」と言った。
鳶色の美しいあの瞳が一度鋭く光ったのを、見逃さなかった。
少女が頷くのを見てから、それまで2人を見守っていたアベルへと身体を向ける。
「君はどうする、アベル君」
「え!わ、わたしもご一緒させて頂いても?」
「ああ、構わんよ」と応えると、アベルは途端に子供の様な笑顔を見せた。
自覚はあまり無い様だが、彼は十分子供の様な一面を持っている。
「では是非、お相伴させて頂きます!…あ、そういえばこれを」
それまで気にしない様に努めていたアベルの手元で大事に抱えられていたものが、手前に差し出された。
袋の中を見せる様に開いてこちらに向け、何か丁寧に包まれたものが袋の中に3つ入っていた。
「実は私、是非[#da=1#]さんとチョコを食べたいと思ってここに来たんです」
「君らしい」
笑いながら’教授’は立ち上がる。
「さ…起きれるかい?」
小さな身体が頼りなくベッドから立ち上がったのを確認して’教授’は扉をくぐった。
………………………‥‥
ホワイトデー用に書き下ろした作品です
たった60分
…といっても
管理人がワタワタしていたから
40分程しか置いていない作品を
「更新お知らせ」せずに
載せてみました~
気が付いた方
たまたま入った方
コレが
良かったといえるか
そうでないかは
見てしまった
あなたにお任せします*
・
・
・
202202011
加筆修正を行いました
・