- Trinity Blood -2章
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神に背いてはならない。
真実を述べよ。
神は見ている。
誰が言った言葉か。
深く流れるような声で誰かが自分にそう言った。
瞳を開けたら、天井が見えた。
苔やカビが地を蔓延り、鼻をつくにおいが若干の息苦しさを物語っていた。
血の匂いが地面に染み込んで、異様な匂いが立ち込めている。
じっとりとして澱んだ空気、冷たい床、微かに聞こえる隙間風の通る音。中では無数の骨が散らばっていて、無惨に引きちぎられた血まみれの服が捨てられていた。
「…」
言葉を発する訳でもなく、ただじっと天井を眺めながら自分がどこに居るのか思い出していた。
途中まで外にいた気がする。
朦朧とする意識の中で、それまで掻き消えていた記憶が自分の頭の中を駆け抜けていった。
その記憶はまるで映画を観ている様なワンシーンを、自分の脳裏に映し出していた。
静かな空間に煩い位の音が心臓の音が響く。細身の男が身体に合わない長く大きな指を[#da=1#]の首に這わせ、獣の様に笑った。
身体を大きく跳ね上げて、その反動を使用し手を引き離そうと抵抗をするが、子供の力では一歩及ばず。
抵抗する[#da=1#]の手をものともせずに、首を絞める手を僅かに強めた。
意識が飛ばないようにぎりぎりのところで力を緩めたり、まるで死の恐怖に歪む顔を愉しんでいるかの様な行動を繰り返される。
暗くなってきた目の前の景色の中でいよいよ意識が飛びそうになった時。
そこで途切れたのが意識だと気付いたのは、辺りを見渡してから。
結局また、いつの間にか意識を失っていた様だ。
しかし気を失った事で思い出した事があった。
神に背いてはならない。
真実を述べよ。
神は見ている。
これは男が言った言葉なのだ。
じんわりと滲んだ痛みが首元に甦り、喉元に手をあてる。
相手が喉笛を潰し爪を食い込ませていたかも知れないが、出血はなく、傷らしきものは手に触れなかった。
「…」
甦ったのは痛みだけ。
重々しくその身を起こし、なんとも危なっかしい足取りで身体を前に進める。
拓けた場所には鉄で出来たらしい柵があり、人が出入するには僅かに広さが足りず通り抜ける事は、難しかった。
[#da=1#]は少し離れた所に座り誰かが来ないかじっと外に目を懲らしてみたが、通り過ぎるのは時と風と砂埃のみ。
出たいとは思わなかったが、出なければいけないと思った。
そっと鉄の柵に触れると、その鉄は思いの外表面がざらついていて手には鉄錆がついた。その手が握る鉄の柵を少しの間じっと見ていたが、柵から手を離し静かにその場から離れる。
上手くいくかは分からないが、自分の持つ武器の力を信じて[#da=1#]は左手首の輪についた十字架に手を伸ばした。
子供がつけるには合わない黒く塗られた大きい腕輪から小さな十字架を引く。
しかし、ふと何かが自分を引き止めた。
ここで待っていれば
何かが起きるだろうか?
先ほど自分が倒れていた奥の空洞の方から僅かに風の音がこだまするのを聞きながら、もう既にどこも痛くない身体で牢の外へ再び目をやった。
「…」
神に背いてはならない。
真実を述べよ。
神は見ている。
その赫い瞳は周囲を見渡してから、消えるような声で「自分は神に背いている」と僅かに呟いた。
辺りに見えるのは高々とそびえ立つ山々。
町がある気配もなく、場所も分からないでいる。
カフスを弾いてみても、電波状態が悪いらしく雑音すら入らない。
電波状態が悪い事を知らせる機械音だけが鼓膜を叩いている。
「…」
格子の向こうに横手に伸びる道は、道なりに歩いて行くと何処かに出るだろうかと風で揺れ動く木の葉の音をぼんやりと聞きながら、結局[#da=1#]はここから動く事はなかった。
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