- Trinity Blood -2章
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
私服は街で走り回っている子供達と何ら変わらない服装。
帽子を目深にかぶった少年は人混みに紛れ、人にぶつからないように注意して歩いていた。
人混みに紛れるのはあまり好きではない。
いつもは人の少ない道を選んでいるが、今日は違う。
人が少しでも多い道を選んで歩いた。
人より身体が低い身体。
どんどんと増える人。
行き交う人の波を避けながら、[#da=1#]は懸命に歩いていた。
病室で感じた眩暈や足元のふらつきは忘れよう、と。
大きな手が彼の背中を押して「コレにも慣れなきゃな…将来大変だろ?」と言って笑った。
体温に慣れろと言ったその手には確かな温もりがこもっていた。
道を歩きながら、人にぶつかりながら。
悲鳴を上げたくなる様な感情を抑えながら。
それを思い出しながら、自分に打ち勝つ事に躍起になる自分に歯止めを掛けてやる事が出来なくなっている事に最早気付く事が出来なかった。
「…っ」
胸を押さえ、下唇を噛み、それでも[#da=1#]は歩き続ける。
鏡に映った自分の顔色が悪かったように思ったのは、病院の電気の調子が悪かったからだと強く思いながら。
ふらつく身体に苛立ちを覚えながら人混みの中に強引に足を進めていく[#da=1#]の視界が、ついに大きく揺れた。
「!」
「っと…おい、大丈夫か?」
地面に膝が付く前に自分の身体が高く抱きかかえられ、地面が一気に遠くなった様に感じた。
分厚い僧衣とは異なり、薄い生地の私服を纏った[#da=1#]の身体。
大きく心臓が跳ねる。
右腕を掴んで自分を引き寄せた親切な誰かの体温気付いて、しかしその体温に[#da=1#]の身体はとうとう悲鳴を上げた。
「放せ…っ!やめろ!やめてくれ…っ!」
「…[#da=1#]?」
聞いた事のある声が自分の名を呼んだ気がしたが、強く閉じられた瞳はその相手を見る事はなかった。
自分の名を呼んだ人物に腕を支えられたまま、今度こそ意識を失った。
*
自分が目を覚ました場所がどこか、[#da=1#]には見当が付かなかった。
ただそこはいつもの白く無機質な天井が迫った狭い部屋ではなく、紅く広い空と大通りが視界いっぱいに広がっていた。
90度世界を横たえた景色をと瞳に映しながら、何度か瞬きを繰り返す。
「…」
起き上がる余力が、自分にはもうない様に感じた。
実に気だるく、横になっているのに強い眩暈が[#da=1#]を襲ってくる。
どうしてこうなったのかと思いを巡らせる内に、次第に自分は大通りを歩いて結局倒れたんだという事をぼんやりと思い出してきた。
このまま意識がはっきりしてくるまでこの90度変わった世界を眺めていようかと思い始めた時、その思考をすべて停止させる様に声が頭上から掛けられた。
「気が付いたか?」
「?! …っ!」
その声に反射的に振り返った[#da=1#]を眩暈が襲う。
「おいおい…無理すんなよ」
優しさを帯びた笑顔がこちらを見下ろしている。
「…まだ…こちらに滞在されていたんですか?」
「ん?あぁ、お前らのおかげで仕事も早く片付いたしな」
倒れかけた時に掴まれた腕は、最早痛まなかった。
消えないのは、強い眩暈。
「時間が…」
「大丈夫だって。明日の夕方に別荘に帰るから、それまでは遊べるって事だ」
確かに会う時間が欲しかった事は否定しない。
見上げた先に居る人物は僅かに曇った声を上げたが「俺にとっちゃ仲間だって大切なんだよ」と笑った。
「…でも」
「明日の夕方だって言ったろ?明日一日詰める事にしたからよ」
無理に身体を起こすと、世界は90度角度を変えて元通りになった。
どちらを選べなんて言われたら、きっと彼には究極の選択。
「レオン神父…あの」
この眩暈は気のせいだと思い込む事にして、[#da=1#]は隣に座るレオンの方を向いた。
「自分の眼は…やはり赫いですか?」
これまで瞳を合わせる事を酷く嫌っていた[#da=1#]と目が合ったのは、一体何度目だろう。
覗き込んだ[#da=1#]の赫の瞳が…
「?」
赫…いや待てよ?
どちらかというと、黒に近くなってきたような気がする。
赤の絵の具が少しずつ濃くなってきたような色を連想させる様な黒。
初めて会った時には、もう少し澄んだ赫だったように思えて仕方がない。
気のせいだといいのだが。
「瞳に映る世界って、人の目にはどのように映るのですか?」
「…へ?」
間の抜けた声を上げるレオンは、年の割に幼く見える[#da=1#]の瞳から目が離せなくなった。
答える事が出来ないまま、レオンは黙って[#da=1#]を見つめ返す。
かつてこうやって2人がじっと見つめ合う事はなかった筈。
瞳に映る世界とは、一体どういうことだろうか。
しばらく瞳を合わせる内に、彼の瞳の中に覗いた世界が広がっている事に気が付いた。
少し眼を細めてその世界を覗き込んでいると、その世界は自分の後ろの景色を映している事に気が付いた。
じっと眼を凝らし、お互いの瞳を覗き続ける。
「…ひとみ…に…」
呟くように言ったレオンの言葉は、とうとう次の言葉が続く事はなかった。
辺りが暗くなった事に2人が気が付くのはもう少し後になってからだった。
*