- Trinity Blood -2章
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「君も座りたまえ」
言われて「小間使い」と言われた青年は軽く首を横に振る。
「…ここで」
演じるのは小間使い。
あくまで使用人としての扱いでなければいけない。
横に控えて静かに立つと、素早く会場を見渡してから外に控える同僚に状況の報告を始める。
「やれやれ…いつの時代も貧富の差で不等な扱いをする社会は嫌なものだ」
ぐるりと会場を見渡してから指定された自分の席に座り、ため息をつくようにぽつりと「こんなに金を持て余している者もいるというのにね」と言った。
元々は自分もあまり他人の不幸など気にしない程冷たいといわれる人間ではあったが、今は少し違うと自分でも気付いている。
「ここには長居したくはないな」
パイプに火を入れると、柔らかい匂いがふわりと辺りに広がる。
煙と共に吐き出した彼の小さな言葉に、室内の報告を終えた青年が自分に声を掛けてきた。
「体調でも?」
「いや、大丈夫だよ。なに、少し気持ちが落ち着かない様だ」
自分の手から離れたステッキをちらりと見遣った。
「さて…彼等の仕事振りを見物しようじゃないか」
さも楽しそうににやりと不敵な笑みを浮かべると、紳士は再びパイプをくわえた。
少しざわついた空間で耳の鼓膜に僅かに届いた機械音を聞くと、青年は耳についたカフスを軽く弾いた。
「…はい」
『[#da=2#]神父、定時連絡が12.6秒遅れた。問題か?』
煙を吐き出しながら青年の動向を見守ると、こちらをちらりと見てから再び前を向いた。
「いえ…会話を」
『会話?問う。ワーズワース神父か』
先には燕尾服を纏った紳士に入室を拒否されそうになったが、無事に潜入出来たのでそれは後に報告書で上げたらいいだろう。
「そうです」
声は実に小さいものであったが彼にははっきりと聞こえているだろう。青年は遠慮なく声を小さくして話を続ける。
『了解した。次に応答がなければ作戦を中止し即座に踏み込む』
「了解」
返事をしたと同時に鼓膜に響く音はプツリと途絶える。
一呼吸置いて紳士が青年に声を掛けた。
「彼からかい?すまないね」
青年は首を軽く横に振って「いえ…問題ありません」と答える。
「彼にとってはね、枢機卿閣下含め任務に於いて私達の身の安全は優先事項なんだよ。時々例外になる時もあるけどね」
仮面の奥で、低い声で笑った。
「任務に支障をきたしますからね」
任務に出た自分達が任務の邪魔をしては意味が無いと返す青年に対し、紳士の声は実に愉快そうに「それだけではないよ」と笑った。
口元に浮かべた笑みの意味を聞かんと口を開きかけた時。
耳に僅かな不快感が残る甲高い音が、ざわついた会場に静寂をもたらした。
「…始まるね」
目深く被った帽子を少し持ち上げて会場の中央、少し前の壇上へ瞳を向けた。
「皆様、本日は当オークション会場へようこそ。本日主催者のファルザー・シオンです。皆様お見知りおきを」
壇上に立ったのは赤みがかった短髪を綺麗に整えられた男性。
静寂の中に響くのは落ち着いた声で軽やかに話を続ける。
「まず最初に、当オークションの落札後の取引方法をご説明致します。現金の他に振込やカード、小切手が可能となっております。ローンは致しかねます。一括でのお支払いを約束できなければ席をお立ち下さい」
客席の方から幾つか笑い声が上がると、壇上の男も口を少しつぐんで場が落ち着くのを待った。
口元には優しい笑みが不気味に浮かんでいる。
「当オークション会場では、絵画く、装飾品、高級食器、美術品を取り扱っておりません。愛玩人形のみ出品されます。皆様のお眼鏡に適うものがありましたら是非お買い求め下さい」
幼い子供達を連れ去り、芸術家が気に入った子供を選んで愛玩人形として仕上げ、このオークションに出品する。
所謂人身売買である。
ここまで話しをしてから、先程までのにこやかな表情に僅かな鋭さが浮かぶ。
壇上に立つ男性の傍に控えた2人の紳士の隠さぬ殺気に気付く人がどれだけいただろうか。
「尚ここでの取引に於いては一切の口外なきようお願い致します」
男性の言葉と同時にカーテンが窓を覆い、光が壇上より僅か上のカーテンに一気に注がれた。
「それではまず一品目」
光を注がれたカーテンの重い幕が軽やかに上がり、ついにオークションが始まる。
「一品目の商品は芸術家チェインハルヴァの作品です」
商品が出るや否や、途端に値段を伝える声が次々に響き渡る。
「…ふむ…興味が無いね」
沢山の声が響く中、小さく呟いた紳士の声が聞こえる。
暫く会場がざわついたのち、一人が挙げた値段を最後に会場が静まり返った。
「では38番の方」
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