- Trinity Blood -2章
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人は眠る時夢を見る事がある。
その夢は時に人を苦しめ地の底へ気持ちを追いやり、時に人を喜ばせ天にまで気持ちを昇らせる。
色白の肌をもつ長身の男は、苦しい表情を浮かべたままその身を起こした。
「…」
苦しい。
言葉に置き換えられない苦しみが長い間自分を苦しめている。
もうこれ以上は眠る事が出来ないだろう。ベッドから足を下ろし、足元の靴を履いて立ち上がる。
ベッドから抜けて窓から覗く月を見上げると、まだこんなにも暗い世界が照らされている事に気が付いた。
見上げた月の隣には、光を放たないいびつな形の月のような物体が宙に浮いている。
「主よ…貴女は私の夢にまで干渉するのですか?苦しいです…私…苦しいです」
呟く言葉は、本当は誰に投げかけるべきか。
そんな事は自分でも解らない。
月の光から逃れる様にこの部屋を出ると、まるで昼かと錯覚する位明かりが廊下を照らしている。
「…そうか」
現在は任務中。
先に休憩を取る事になったのだが、ベッドに潜ってから一体どれ位経っているのか気になる所。
木々は黒く恐ろしい魔物へと姿を染めて、天井を突き抜けんばかりの大きな窓にその身を揺らめかせている。「夜が嫌いだ」と呟いたのは何度目だろう。
廊下の蒸すような暑い空気を身体で切るように、夜に思えぬ廊下を疲れの取れぬ身体が歩いて行く。
しばらく廊下を歩いていると少し離れた場所に建てられた礼拝堂が姿を現し、大きな扉が視界に映る。その扉の傍らに、自分と同じ夜の闇よりも黒く美しい色の僧衣を纏った小柄の神父がまるで置物の様に実に静かに佇んでいた。
「や、トレス君」
「神父アベル、卿の睡眠時間は10800秒だ。まだ4388秒しか経過していない。可及的速やかに仮眠室に戻る事を推奨する」
「やや、お恥ずかしい。実は気が張ってしまって眠れないんですよ。私ももう歳ですかねぇ?」
悩みを隠して笑みを浮かべるとこの悩みが実はとても小さい気がすると錯覚を覚える。静かな夜に、闇に準じた黒を纏う2人の巡回神父。
「否定。人が眠れぬ時に歳は関係ない」
冷たく返されると次の言葉が次いで出る人はあまりいない。
「しかしですね、トレス君」
ぐぐっと肩を寄せて身を縮めると、アベルはまるで子供の様な手つきで彼の服の右袖を握り「奇襲が来たらどうするんですか?!眠っている間にオダブツなんて、悲しいにも程があると思いませんか?!」という言葉と共に強く上下に振り出した。
「否定。意識がある時の痛みや恐怖の方が数段怖いという数値が出ている。離せ」
がくりと頭を落とし「そんなぁ…」とうなだれると、自然と下に視線がいく。途端、アベルは慌てた様子でトレスへ向き直った。
「あの…[#da=1#]さんは?」
その声は先程と変わらぬもの。
「現在の温度は彼にとって適切で無い為、室内にて警戒中だ」
確かにここの暑さは彼にとって過ごしにくい気候ではある。[#da=1#]は暑さを苦手としているので、トレスの判断は正しいと言える訳だ。
しかし。
「[#da=1#]さん今どこに?」
「彼なら中の礼拝堂にいる。現在も標的の傍で待機している」
今回の依頼人は彼女の子供。人として生きる事を望んだ長生種と短生種の間に生まれた子供。
幼く、長生種として覚醒したばかりのほんの子供である。
彼女は自分の能力にまだ恐れを抱き血を求める本能を理解するにはまだ幼い、実に弱き存在なのである。
5日前「助けて欲しい」と依頼が来たこの屋敷に足を運んだが、既に母親は息をする事がなかった。
現在子供と共に礼拝堂で待機している[#da=1#]の事が気になって仕方がない。
「私、中へ入ります」
「否定。卿は速やかに休息を取る事を推奨する。何日かは不明だが連日休息をとっていないと聞いている」
アベルに持たれていた右袖が自由になった途端。彼の左手がその右腕を掴み、右手には拳銃が握られていた。
引き止められたアベルがこちらへ向くと、縋る様な瞳でトレスに向けられる。
「それは[#da=1#]さんも同じです!彼女は私と同じ任務に「肯定。これは任務だ。単体任務ならまだしも、独断での行動は仲間の命を危険に曝す事になる」
「…それでも」と説得を続けようとするアベルに対し、冷徹に言葉を投げ掛けた。
「問題無い。彼は万が一負傷しても自動回復機能が発動する。加えて訂正しろ、神父アベル。彼は『彼女』ではない」
「分かってます…分かってるんですけど…」
アベルは静かに首を縦に振る。
人が傷付くのはとても辛い。
身体に突き立つ剣や肉に喰い込む爪、皮膚を焼く銃弾…
傷が癒え、やがて身体から痛みが消えたとしても、その迫り来る恐怖が自分の瞳に残り、心に傷が残る。
心の傷を身をもって知るアベルにとって、[#da=1#]に戦闘の任務は辛いと考えてしまうのだ。
何とかトレスを説得しようと拳に力を入れて一呼吸。
振り向くと同時に歩き始めたトレスを、驚いたまま足が出ないアベル手は、それでもトレスを追い掛けようとして前に飛び出した。
しかしその手は虚しく空を切り、アベルの不健康なまでに細く長い身体は頭から転がった。
その音にトレスの規則的な足の動きは止まり、まるで呼吸が決められているかの様にゆっくりと振り返る。
「損害評価報告を。ナイトロード神父」
こけてその身を委ねた床は暑い夜とは裏腹に冷たく、アベルは床に置いた指先で感じた温度にわずかながら驚く。
「あ…はは、大丈夫です。あの、トレス君どこに?」
彼は僅かな機械音を発し、硝子の様な瞳をアベルに向ける。
「哨戒の時間だ。休憩を取らないのならば卿はここで待機していろ」
「…トレス君」
美しい顔立ちの青年はこれ以降何も言わず、静かに向きを変えて哨戒に出た。
「有難う…トレス君」
共に任務に出たのは実に久し振りだったが、帰って休む間もないまま新たな任務を課せられて慌ただしくこの地に出て来た[#da=1#]の表情に疲労の色が見られていたのが気になっていたのだ。
扉のノブに手を掛けて、しかしアベルはその手に力を込める事は無かった。
振り返るは月。
「…リリス」
呼ぶ人は褐色の肌を持つ美麗なる赤髪。「聖女」と言われても過言ではない聖なる存在。彼女が大切な存在だと気が付いた時には、彼女を失ってからだった。
月と隣り合う、いびつな月のような物体を見上げてアベルは消える様に呟いた。
「失いたくない。もう誰も…」
改めて扉のノブに手を掛け、その扉を引いた。風圧で強く風が吹き込み、中へ通ずる扉が開ける。
礼拝堂内にいるのは依頼人の娘。
そして…
アベルは眠れぬその身体を礼拝堂に足を踏み入れた。
!読んだよ!
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久し振りの更新は中途半端で終わりという何ともイラっとくる感じですね…(汗
や…
すみません…
私仕事場で小説打つのですが、最近どうも仕事場でまともに休憩時間無くて打てども打てども終わりが見えず…
一旦CMです…とか…