- Trinity Blood -2章
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古新聞を読み耽っていると、後方から誰かがまっすぐ歩いてきた。
その足音は規則的でリズムよく歩いてくる。
「[#da=1#]・[#da=2#]神父」
平服にその身を包み『外出する』としか連絡していなかった。
目の前でぴたりと止まった小柄な神父は、同僚であるトレス・イクス神父。
彼は普段カテリーナ・スフォルツァ枢機卿の主たる護衛を行っており、不穏分子の見極めの為巡回を行っている。
時間が合えば同行を求められる事もあった。
出逢ってすぐ。
幼かった[#da=1#]は――
外見は未だ成長を見せないが彼は立派な青年である。
トレスと出会ったばかりの頃は『偽りを纏えぬ』幼い子供だった。
直属の上司であるカテリーナの助言で、トレスとの行動を中心に活動していたがこれには3人共通の思惑があっての事だった。
経緯は不明瞭だが突然身に付いた能力を、将来的に必ず役に立つと判断しカテリーナは子供を保護する事に。
唯一神に背いて性を偽った子供が『神父』として成長を望んだが、能力を欲したカテリーナにとって大した障害ではないと判断しこれを了承。
神父として登録する事は特に障害などは無かった。
シスターとして登録しても神父の僧衣をその身に纏っている者もある。
しかし、問題はここからだった。
体温を苦手としていた子供は、人との接触を酷く怖がったのだ。
慎重に毎日を過ごし体温に怯えている子供に対策を売ってやらないと、有能ではあったがこれでは任務の遂行に支障をきたしかねないと判断。
迎えたばかりのトレス・イクス神父に警護を兼ね、[#da=1#]へはトレスとの同行を暫く義務とさせた。
トレスはカテリーナからの命令を重要事項と登録し、日々一挙手一投足へ注目し『神父らしく振る舞え』や『性別をコントロールしろ』と、何度も指示した。
子供が神父として成長していくそのサポートを行っていたトレスが、いつしか[#da=1#]に対し過保護になっている場面がある事にはアベル以外に誰も気が付いていない様だったが。
「卿のチップから発信される位置情報が6時間以上の目立った移動が無い為、現状を確認しに来た」
保護されて間もなく。
自己回復能力が、経路は不明瞭だったがその能力を手にした事で、新薬や研究材料の実験体として報酬を得ながら生活をしている。
その際、逃走や実験内容の漏洩が無い様に位置情報を詳細にするチップの埋め込みをする事になった。
勿論報酬や生活の保障がある為、逃走の予定は無いが信頼関係構築の一環であるとしてこれを了承している。
普段これが活用される事は無いが「外出する」と連絡したまま戻らないと同僚であるトレスが迎えに来る事が有る。
確かに途中食事をしたり、多少の移動はあったが今日はほぼこの場に留まったままである。
手に持った古新聞が風で揺れる。
膝元へ古新聞を降ろす少年に「この時期は陽が短い。あと2時間と18分28秒で日が暮れる」と告げた。
「巡回の途中だが時間には支障は無い。同行の準備を、[#da=1#]・[#da=2#]神父」
「…はい」
膝へ置いてた鞄に古新聞を丁寧に畳んで仕舞い込んで、ベンチから立ち上がる。
並んで立つと頭2つ分程低い少年。
小柄で顔立ちの整った鋭い瞳の神父は僅かな機械音と共に一部の無駄も無く、くるりと向きを変えた。
少し後ろから着いて歩き始める[#da=1#]を確認しつつ、機械歩兵はその足を進めていく。
しかしその速度は先程とは少し違っていて。
トレスの歩行速度が先程より少し、遅くなっている。
しかしその事を知るのはトレス自身だけだ。
噴水のある広場を背に歩き始めた少年は、先導するトレスの背中を追う。
静かな街に取り残されたのは、後ろの噴水の水音と辺りを取り巻く風音。
朱く染まりつつあるその世界が、いつの間にか広がっていて。
先導して歩くトレスの足元を追っていると、お気に入りの小路に進んでいる事に気が付いた。
声を掛ける事は無いが、トレスが普段『巡回』として通っている場所ではない様な。
小路に入ると足元に丁寧に並べられた石の道が広がっていて、時間によって違う美しさを魅せてくれるこの景色。
足元に目を奪われながら、トレスから離れない様に注意しながら。
思わず口元が緩んでしまいそうになって、慌てて手で隠す。
無駄な動きを一つせず、一片の隙を見せない小柄なこの神父から僅かに機械音が聞こえてくる。
遠慮がちにトレスを見上げると、しかしトレスはこちらを見ていない。
いや、もしかしたら。
頭を軽く振って。
小路へ足を踏み入れたトレスを追い掛けていく。
美しく朱く光る世界は輝きを増して、世界が眩しい。
[#da=1#]の目は強い光を当てられた様に錯覚する。
前を歩くトレスを見上げて――
夕日に照らされて朱く輝く漆黒の僧衣は思いの外美しく。
黄金道が導く世界に、思わず足を止めた。
振り返った先で黄金道に長く伸びた自分の影も、夕日を受けて光っている。
もう一つの影は動いていく。
前を向き直ると、その影の先でトレスの足元も、僅かに光を放っていて。
その光を追い掛ける様に、赫い視界に広がったこの小路を行くトレスを追い掛けて再度歩き出した。
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20220416
加筆修正を行いました。
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