- Trinity Blood -2章
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三寒四温。
少しずつではあるが段々と暖かくなっている。
窓越しに見る子供たちが元気に走り回っている姿が何度かあって。
久し振りに外出が赦された一日。
最近試した新薬の副作用から、ベッドから出る事が難しく、日々無機質な天井をただただ眺めているだけだったので、今日は待ちに待った朝となった。
体調が良いとは言えなかった為か、看護師は少し渋られてしまったが。
設置されている洗面台で顔を洗ってから、鏡を覗き込んだ。
鏡に映ったその瞳は赫い。
幼い頃は明るい茶色だった筈の瞳。
しかし。
その瞳は、体温や能力に関係なく日々色を変えて。
段々と血の色に近くなっていく。
原因は全く分からない。
しかし研究員の一人から「経緯は不明だが’吸血鬼’として声明を得たのではないか」という見解を示され、以降奇異の目が集中した。
検査を受ける時の扱いが虐待めいたものになった研究員も居る。
距離を取られるようになった研究員も居る。
この瞳が人を惑わすなら、受ける扱いも仕方がないのだろうと思ったが、この瞳の色は、時折元へ戻っている事が有る。
研究員であり[#da=1#]を養子にしたいと何度もカテリーナに申し出ている伯爵が発見した報告書によると、体温を感じたり、能力が発動している時は特に赫が強くなっている様に見えるらしい。
これが事実だとすると、意志に関係なく赫くなる事があるという事だ
何故意志に関係なく赫くなるのか。
まだ推測の域を出ていない事から、研究員の第一人者である伯爵がこの謎を解明しようとしている。
伯爵からは「人を狂気に導く可能性もあるので、窮屈だが瞳は隠してはどうか」と提案があった。
勿論[#da=1#]自身の保身の為の提案であり、[#da=1#]はそれを受け入れた。
瞳を隠している理由を知っているのは現在、それについて報告書を上げているカテリーナ・スフォルツァ枢機卿のみだ。
任務など必要時には上げるが、積極的に髪を上げる事は無い。
いつの間にか準備を進めるその手が止まっている。
自由時間はそれほど無いのだからと、左右に首を振ってタオルで顔を拭いた。
洗面台の端へタオルを掛け、衣服を入れているロッカーへと向かった。
質素な入院着を脱いで、洗濯カゴに入れる。
ロッカーに掛かっている小さな鏡にその不健康そうな肌色が映ったのはその時だった。
普段研究検体として室内にいる事が多い為、太陽を浴びている時間が少ない[#da=1#]は確かに不健康そうだ。
未熟ではあるが、胸の膨らみを伸縮性のない肌着で潰して。
唯一、髪に背いて性を偽っている[#da=1#]。
――今の自分を見られたら騒ぎになるだろうな
ぼんやりと鏡を見つめていたが、視線が下がって。
ふと足下の紙袋の方へ目がいくと、何部かの新聞紙が入っている事に気が付いた。
日付も随分古く、インクが薄くなっている部分もあるいわゆる古新聞である。
これは普段よく目を通しているもので、いわゆる趣味の一つだ。
差し入れとして同僚達が持ってきてくれたものだったが、その中から何部かの古新聞を取り出して、上部分に置いてあるカバンに入れた。
窓の方へ向くと、太陽が強く光を放っているので暖かいかも知れない。
室内はひんやりとしている為、気温の差が分からない。
あまり暖かいと、しんどい心が積み上がってしまう。
自分自身をコントロールしろと、よくトレスから言われている。
彼は実に的確で、無駄な事は一切…――
言わないと、何故か思っている。
トレスは日頃『心など持ち合わせていない』と言うが、彼の不器用ながら彼はとても紳士だ。
トレスの傍に居ると、生命の保証はあまりないが、心の保証は確実だ。
衣服に不健康な腕の袖を通しながらボタンを留め、準備を整えてロッカーを閉じる。
洗面台に戻り髪を梳いて、鞄を手にして扉を開けた。
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