- Trinity Blood -2章
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いつも読んでいる新聞は過去の情報。
新しい情報も勿論頭に入れている様だが、見掛けた時には大体色褪せて読めない所もある様な古新聞を読んでいる。
仕事中でも時々それを広げており、時間の限り隅から隅まで読んでいる。
記事が前後で繋がっている時は、あちこちで古新聞広げていて’教授’の部屋や研究室、病室、滞在用に用意されているベッドの上に古新聞を散乱させてどれがどれだか分からなくなって困っていた所に遭遇した事が有る。
滅多に出逢わないだろう場面に出会って、アベル自身は珍しい光景に微笑ましい気持ちさえ芽生えていた。
いわゆる、趣味というのだろうか。
今もこうやって飽きずに古い新聞を開いて無表情ながら楽しんでいる様な小柄な神父を、アベルは微笑まし気に眺めていた。
あまり動かないまま黙々と古新聞を読みふけっている[#da=1#]だが、時々窓がコトコトと鳴ると、窓の向こうへとその瞳をやっている。
いつの間にか一挙手一投足を見逃すまいと、その視線が釘付けになっている事にアベルは気が付いているのだろうか。
「アベル君――
書類は進んでいるのかい?」
見兼ねた’教授’に声を掛けられた瞬間。
アベルの思考の時間は、現実に引き戻された。
’教授’が隣に来ていた事に気が付いたのはその時だった様だ。
白紙の書類を見下ろしてやれやれとため息。
「え?や…いやですね’教授’!私だって、やる時はやりますよっ」
どちらが子供かと言ってしまいそうな位に、ぷっくりと両頬を膨らせて口を尖らせるアベルに’教授’は「そうかね?」と笑って見せる。
「いつまでも埋まらないその白紙の書類は何だい?猊下は後2時間弱しか謁見が許されていないのだよ?」
言われてはっとして時計を見やる長身の神父の姿は、やはり子供っぽくて。
「あ…あはは…これはですね…だって全然進まないんですよー…」
手前の書類を隠す様に前につんのめる。
何故か[#da=1#]の傍にいると妙に子供っぽくなるアベル。
どう言った心理が働くのかは分からないが、彼がどうしても[#da=1#]と打ち解けたいのは遠巻きに見ていても誰もが分かる。
時々気の毒に思う事はある。
しかし、幼い神父――
暖炉傍の窓辺に座っている[#da=1#]は、パーソナルスペースへ違和感なく入り込んで来るアベルの様なタイプは少し苦手だという事実を分かっているのだろうか。
アベルが近付く程に、広がっていく距離。
「ま…気持ちは分かるがね、あまり[#da=1#]君に目を取られてばかりではいけないよ」
「…はぁい」
気の抜けた返事。
――あまり、[#da=1#]君を深追いしてはいけないよ
自分で世界を切り開きたいと思ったら、彼は自分で足を踏み出すし、扉を開ける。
打ち解けたいと願うばかりに、彼はすっかり大切な事を見逃してしまっているようだった。
「大丈夫かい?」
「なんとか…がんばります」
少し離れていたところからアベルと’教授’のやりとりを見ていた[#da=1#]は、すぐにまた古新聞に目をやった。
[#da=1#]は暖炉傍の、3段の高さの石段が広がっている出窓のスペースがお気に入りの様で、ここへ来ると必ずその場所で過ごしている。
’教授’はこのスペースだけは欠かさずに綺麗にしているらしい。
提出書類を書く時、それぞれ書く場所は違う。
アベルも普段はこの部屋で報告書類を作る事はあまり無い。
[#da=1#]が病室でも研究室でも無く、ここへ来ていると知った時は必ず色々口実をつけてここに来て提出書類を書いている。
しかし書類を作っている途中、何度も[#da=1#]を目で追い掛けてしまい、書類は全く進まない。
何故なら、最近研究の検体として不在の事が多く、こちらへ出てきたと思ったら任務で不在。
[#da=1#]と久し振りに再会できた事で、アベルは普段より再会を喜んでいた。
書類を書くつもりで来たのは本当だったのに。
つい時間を忘れてにこやかに[#da=1#]を眺めて今この瞬間に至るという訳だ。
ふと[#da=1#]を見ると、その顔は紙の壁で隠されてしまっている。
新聞を読んでいる[#da=1#]の指が僅かに動き、アベルはその僅かな動きに釘付けになった。
「…[#da=1#]さん」
その手が次のページに手を伸ばした時、アベルは思わず声を掛けてしまう。
動きを止めぬままページをめくる。
少年はこちらを向かなかった。
自分を呼び止めたものではないのではない事が分かっているから。
アベルもそれを分かっている。
ただちらりとでも、こちらを向いてくれたらと。
ただそれを、期待しているだけだなんて――
こちらに向いて欲しいと思ってしまう気持ちが、会う度にとても強くなって。
親でもないのに。
兄妹でもないのに。
恋人でもないのに。
どうして?
思案に暮れる。
アベルにとって、この少年に振り向いて貰える事が。
声を掛けてくれる事が。
いや、もう、瞳を向けてくれるだけでも。
それだけでも。
本当に駄目だ。
どうしても無意識に[#da=1#]へ目を向けてしまっている。
ただ会いたいと思うだけで。
瞳を合わせて欲しいと思うだけで。
声を掛けたい、声を掛けて欲しいと思うだけで。
前髪で器用に瞳を隠した少年が、その美しい赫の瞳を向けて。
何故その瞳を、隠してしまうのか。
美しいその赫い瞳が、アベルを映した時に。
何故か目を離せない様な衝動に駆られて。
「[#da=1#]さん――」
目の前で乾いた音が鳴った。
黒に近いその髪を肩甲骨辺りまで伸ばした幼い少年が、古新聞を綺麗に畳んでいる。
その呼び掛けに応える筈の無い少年が、僅かな時間を置いてゆっくりと顔を上げてこちらを向いた。
驚きのあまり、いや。
応えてくれると思わなかった少年と瞳があったらしいアベルが「すみません、あはは…何でもないんです」と、気まずい雰囲気の中で笑った。
慌てて書類に目を向けたが、書類に意識が向く訳も無く。
自分で蒔いた種とはいえ、暫くこの気まずい雰囲気の中で過ごすというのはかなり辛い。
アベルは自分が何故声を掛けたのかと深く後悔し、神に赦しを乞いながら大きくため息をついた。
しかし。
ゆっくり頭を上げると。
再び[#da=1#]と目が合ってしまう。
「あ…あの、」
目を離せない。
しかし少年は、やはりその瞳を隠したまま。
どうしようかと思案しているアベルに「ナイトロード神父、」と少年が呼び掛ける。
隠した瞳は、しかし確かにこちらを向いている。
呼び掛けられた自分が、ちゃんと返事をしたのか覚えていないけれど。
「…紅茶でも?」
驚いた表情のまま。
間の抜けた声で「え?あ…はい」と返事をするアベル。
[#da=1#]は少し離れた先へ歩き始めた。
事の成り行きを見守っていた’教授’が口元を緩めた事に、2人は気が付いたのだろうか。
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加筆修正を行いました。
20220402
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…えー
…え?
なんでしょうね?
この親子的家族的なネタは…
自分が自分で
何が何だか分からないですが…