- Trinity Blood -2章
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
静かになった景色。
「流石に静かなもんだな」
呟くレオンの隣で小さく頷いた[#da=1#]は、夜に変わったこの町に身を置いて2日目。
「…」
大聖教とテリーナ・スフォルツァ枢機卿の護衛として滞在を始めたこの町は、新年の聖典を無事に終えて休息の為に訪れた町である。
6名以上の巡回神父が常駐するこの町は、日中は愉快な音楽や楽しそうに笑う人の声、歩く音や車の走る音がしている。
今ではすっかり日が落ち、町はとても静かだ。
遅い夕食を済ませた後、2人はそのまま外に巡回に出て来た。
「うー…寒い。こんなに寒くちゃ俺の身が持たねぇよ」
大漢はその身を縮める。
少し後ろを歩きながら前方のレオンの様子を覗き込む幼い少年、いや、彼はとある事件をきっかけに成長を止めてしまったが外見は兎も角11歳の立派な青年だ。
僧衣を纏っていないとおよそ神父とは思えぬ、浅黒の肌を持つこの大漢。
ちらりと目が合った少年に対し「俺は冬は大嫌いなんだよ」と話す。
その間別に直接何かを聞かれた訳でも、言われた訳でもない。
再び「寒い」と両腕を摩り、身体を縮ませる。
幼い神父は僅かに首を傾げる様にして何度か瞬きをして。
「…以前は夏が大嫌いだと――」
「あのなぁ」
確かに言った記憶もあるし、夏は暑くて大嫌いだ。
しかし何と返せばいいのかと思案する間もなく口が勝手に反論を飛ばした。
こうなればその勢いで説明をする他なく、レオンは言葉をそのまま続ける事にした。
「人間は恒温動物!寒いのも暑いのも苦手なんだよ!分かるか?」
言われて頷く[#da=1#]。
言葉での質問ばかりではなく、言葉無く問い掛けて来る少年。
2人の間では言葉でのやり取りを頻繁に行わないのに、不思議と少年の問い掛けをレオンは聞き取っている様だった。
「猫みたいに自家発電的な事が出来る変温動物な身体だったら便利なんだけどよ」
周囲に警戒しながらも表面上は平静を装い、町を歩くレオン。それを理解しながら[#da=1#]も周囲に警戒をして歩みを続ける。
「こんな寒い時には酒と女を引っ掛けてベッドで暖まるのが一番だよな」
笑う大柄な神父の少し後ろで小柄な神父が驚いた様な表情を向ける。
制止するか、いやそれとも。
表情を読み取ったのか「分かってるって。お前に迷惑掛けたりはしねぇよ」と、[#da=1#]の方へ笑顔を向ける。
勿論迷惑が掛かった事もなく、掛けられた覚えも無い[#da=1#]は何も言わなかった。
お互いが認められた信頼関係に相応しい無言で、言葉の無い遥か昔に通じた疎通の様なもの。
「ところでよ」
いつもと調子を変えないままでレオンは笑った。
「今年最初の大仕事…だっ!」
地面と近い距離で飛んで来た弾を2人は左右に別れて同時に跳んで躱した。
「 」
誰かが言葉を発している。
言葉の位置を正確に把握しながらレオンはまだ迫り来る弾を器用に躱して壁に張り付いた。
その壁はざらりとした煉瓦質の壁で、レオンはまるでぴたりと壁に張り付いた。
気配を殺しながらその大きな身体を屈めて、草花の間の僅かな隙間から弾が跳んできた方向を確認する。
一方の[#da=1#]は跳んだ先で足を止め、静かにレオンと同じ方向を見ている。
辺りに冷たい火薬の匂いが漂い始め、張り詰めた時間が一帯を占拠する。
消されていた気配が躊躇なく次々と姿を現し、身を隠さなかった幼い神父と間合いを詰め始める。
静かに詰まっていく距離に動揺する様子のない小柄な神父は、僅かに雲を割って見える月の光に白い息を照らす。
「カテリーナ・スフォルツァがこの町に来ている事は既に承知している。我らの願い聞いて貰おう」
[#da=1#]とじりじりと詰まる距離に焦らず冷静にどうしたものかと思案するレオン。
何か思惑があってあの場に留まった事は分かったが。
しかしこの状況を打破する術を計算しても、どう頭を捻っても[#da=1#]が負傷をする未来しか見えない。
「ややこしい状況にしてくれたもんだぜ全く」
幼い神父は、左手を首から掛かる腕輪へとその指を滑らせて。
冷えた空気にあてられて氷の様に冷たい、腕輪の先に付いた小さな十字架は、[#da=1#]は高い金属音を立てて心臓の高さに運ばれる。
「枢機卿恐喝目的の恐喝及び聖職者への銃器による公務執行妨害及び殺人未遂により、貴方達を逮捕しますが――」
「恐喝だ?!ほざけ!!」
「いいからさっさと案内しろやっ!こっちはあまり気が長い訳じゃねぇんだよ!」
彼等は人間だ。
短くも確かに生きる存在。
「枢機卿に面通りたい目的が理解出来ません」
彼等は人間。
迫り来る「怒り」という名の銃口が、[#da=1#]の心臓を躊躇わずに狙う。
「面会の予約があれば順次ご案内します」
ゆっくりと。
右手が動いた。
「そんなもの悠長に舞ってる場合じゃねえんだよ」
目の前の男は、外見が幼いこの少年に罵声を飛ばす。
外見が幼いというだけで、これほど大きく出られるなんて。
しかしこの少年は全く動揺した様子もなく。
この時男が後悔する時間を深く暗い場所で過ごす事を知っていたら、こんな罵声をぶつける事はなかっただろう。
「血の様に緋い衣を羽織った生きた殺人鬼様にな」
途端に迫り来る光。
「が…っ?!」
その光は月の僅かな光を浴びて[#da=1#]と繋がり、彼は砂埃を僅かに残して跳び上がる。
「 」
驚愕の声が上がってすぐ。
声にならない悲鳴と共に男は一度大きく身体を跳ね上げて、力無くがくりと膝をついた。
左の男が幼い神父に狙いを定めて構えた銃が火を噴く僅か手前。
「ぐぁっ」
耳障りな高い金属音が空に向かって上がり、月に閃いた太い線が孤を描いて闇に吸い込まれる様に消える。
拳銃の先が地面に突き刺さる様に重い音を立てて落ちる。
「ちっ」
誰かが舌打ちと共にぎちりと奥歯を食いしばる。
その音と共に残る数人の男が慌ててこの場を走り去って行く。
派遣執行官によって意識を失った者と、銃器を破壊されて茫然とその場に立ち尽くしている者を残して。
「…」
恐らく主犯格の者は一番奥で様子を見ていた男。
その男は追うまでも無い。
「さて、あとは勝手に引っ掛かってくれるから面倒も無いな」
光が飲まれた闇から静かに姿を現した男が、妖しく笑う。
幼い神父は頷いてから男達が走り去った場所を見た。
「朝っぱらから駆り出されて一日掛けたプレゼントだぜ?受け取ってくれよな」
途端。
微かに聞こえる高い発信音。
悲鳴と共に木々が激しく揺れて、隣に立って向こうの暗い景色を強い光が宿った瞳で暫く見つめていた。
レオンのその瞳を見て、間違いなく彼等は捕縛出来る状況になった事を確信してから[#da=1#]は茫然としたまま動かない男と、横で気を失っている男の方を向く。
「向こうのとこっちのと…俺一人じゃ流石に運べねぇな」
整えられていない髪に手を当て、頭を掻いてどうしたものかとため息をつく。
「ケイトの小姑でも呼ぶか?」
「否定。彼女は小姑ではない。彼女はシス「あー分かった分かった。俺が悪かった」
ため息の色濃く、白い息が辺りを染めた。
端正な顔立ちに僅かな機械音、平淡な声。彼もレオンや[#da=1#]同様派遣執行官である。
派遣執行官トレス=イクス神父、コード'ガンスリンガー'。
彼はその感情の無い瞳で、冷たく夜を染める白い天使を連れて来た。
急に降り始めた白い雪が身体に纏わり付いて来る。
突然の同僚の登場に理解が追い付かず[#da=1#]はレオンを見た。
「そういや俺が呼んだんだ。お前が危ない事するからな」
ぐったりとその場に倒れた男と、やっと我に帰った男に手錠を掛けてトレスは来た時と同じ様に規則的に足を進める。
「…すみません」
僅かな沈黙の後素直に頭を下げる彼に、彼なりに力を加減してはいると思うのだが、レオンは[#da=1#]から見て思い切り頭を撫でた。
「ま、命あっての物種だ」
「神父レオン、神父[#da=1#]。同行を」
2人が立ち止まっているのを確認して声を掛けてくるトレスに、小さく返事を返して[#da=1#]は歩き始める。
一方のレオンはまだ歩かず、その場に足を止めている。
「なぁ[#da=1#]」
思い出した様に声を掛けられ、[#da=1#]は振り返る。
闇夜に浮かぶ白い天使は月に照らされて輝きを増した。
「寒いのは勘弁だけどな…お前と見る雪は好きだぜ」
「?」
静かに歩き始めるレオン。
理解が若干遅れた[#da=1#]が、数歩遅れてレオンを追い始める。
追い付いた[#da=1#]の手がレオンの手元の袖を引っ張ったが、それは声を掛けようとするものでは無い。レオンはただ静かに笑ってそれを許した。
「何をしている。早急に枢機卿が待機する洋館に帰還を」
トレスの言葉に呆れた様な溜め息をついて「了解了解」と返事を返した。
3人が洋館に着いたのは月が静かに雲に隠れ、辺りが暗くなってから。
***
…これクリスマスに間に合う予定で書き始めたものなんですが
今…
…スミマセン
最近仕事かゲームばかり
スミマセン
とにかくやっと完成です。
。
加筆修正を行っています。