- Trinity Blood -2章
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実を言うと。
ここには会いに来たのだ。
彼がよく来るという情報を耳にしたペテロは、時間があればなるべくここで暇を潰していた。
しかし一向に遇えずに過ごしていた。
派遣執行官である、[#da=1#]・[#da=2#]神父に。
情報をくれた者を疑い始めた頃。
本当に彼が来た。
明るい先では余計に白い肌が目立つ小柄な少年。
考えなしに行動したとはいえあの時思わず振るった行為の非礼は詫びたいと常々思っていた。
あの時感じた疑問も未だ解決されていないが、兎に角彼に会いたくて。
ここへ通ってしまっている。
人は暴力では育たないと昔誰かが言った事を思い出し、ブラザー・ペテロは自分らの行動を深く反省していたのだ。
でも何故か。
意図のない質問を投げ掛けてしまった。
別にこんな話がしたかったのではない。
腹を括らなければ。
「…派遣執行官」
前髪で隠れていた瞳が、風に揺れて僅かにその横顔を露見させる。
遠慮がちにペテロの方へ向いたその瞳は美しくて。
巨漢は息を呑んだ。
赫い瞳。
長い睫。
あの時掴んだ細い手首の感覚が手のひらに蘇ってくる。
柔らかそうな唇に目がいって…――
頭を左右に振って、思考を止める。
彼は本当に男か…?
そう。
この疑問は解決されていない。
いや同性だったとしたらこの高鳴りは危険だし。
仮に女だったとしたら。
待て。そんな思案にふけっている場合ではない。
ゆっくりと視線を落とした[#da=1#]の肩へ手を乗せてしまいそうだった。
伏目の[#da=1#]の瞳が赫く見えた事が気になったが、これ以上話を逸らしている場合ではない。
それより本題だと、身体ごと[#da=1#]へと向き直る。
「覚えているか?某が汝にした事を」
子供に相手に暴力など、見苦しいものはない。
ペテロは自分を追い詰めていたのだ。
あまり距離があるとは言えないベンチの端から頭を下げて来るペテロ。
「心より詫びたい!」
声も勢いよく響く。
頭を下げるとその距離は一気に近付く。
声とその迫り来た頭に[#da=1#]は飛び上りそうになった。
道行く人が数人足を止めて、どうした事かと遠巻きに成り行きを見守る。
「あの…よくある事ですから」
別によくある事ではないが。
体温が上がってくるのが分かる。
落ち着け、冷静にやり過ごせ。
「気にして…いませんので、あの――」
それは低く掠れていて、しかしペテロの耳にはよく届いていた。
何と続けていいか分からずに戸惑っていると、突然巨漢がガバッと顔を上げる。
その身長差はやはり赤い壁の様で。
僅かに身を引くが、腰元にひじ掛けが当たる。
ベンチの端に居る事を思い出す。
近付く身体に、ベンチの端でその身の逃げ場がない。
煩い鼓動が非常事態を告げている。
「しかし「人は過ち無しには前に進めません。貴方が自らの行いを悔いるなら、主はそれを認めて下さいます」
振り返った先には、その細腕に見合わぬ荷物を両手に抱えた長身で眼鏡をかけた神父が立っていた。
いつの間にか周囲すら見ていなかったらしいペテロ、目の前の巨漢の存在に焦り過ぎて後ろに立たれていた事に気が付けなかった[#da=1#]。
驚きのあまりか、立ち上がるペテロ。目が逸れた事に安堵したのも束の間。
すぐにその巨漢はこちらに向き直った。
「某は…!」
「いけない!ペテロさん!」
制止が遅れ、両肩にドンと置かれた手に痛みが響く。
「…っう!」
漏れ出た悲鳴が耳に届いた時。ペテロは我に返った。
それほどまでに謝罪をしたかったのかと自分に少し驚いていた。
両手を離し、咳払いを一つ。
「すまない、謝罪をしに来たのに…」と。
「卿は…某に大切な事を気付かせてくれた大切な人だ。違う所に籍を置いても、感謝に値する者は大切にしよう。今後もどうか主の導きがあらん事を…。失礼する」
立ち上がった彼は大きな背中を[#da=1#]に向ける。
まるで荷を下ろすように言われた罪人が、喜ばし気に道を歩く姿を見ている様だった。
「――[#da=1#]さん?」
少し呼吸が浅い様だった。
落ち着かせようと、何度か深呼吸をしている様だった。
この幼い、いや外見とは違い彼は立派な成人だったが――
[#da=1#]神父はその身に降った’災厄’以降体温を苦手としている。
しかし気のせいだろうか。
少しその体温に、僅かながら免疫が付いている様な気がする。
気のせいかも、知れないけれど…
去り行くブラザーペテロのその後ろ姿を瞳に映していた[#da=1#]に、アベルはもう一度「[#da=1#]さん」と声を掛けた。
先ほど勢いよく手を置かれたその肩にそっと、一度だけ触れた。
「皆さんお待ちですよ?…さ、帰りましょう」
頷く幼い神父の口許には、僅かに笑顔が宿されていた。
アベルには[#da=1#]がやはり少し成長している様な気が一層強くなった。
しかしそれらには触れず、アベルは静かに微笑んで喜んだ。
立ち上がる[#da=1#]を確認して、少し先行して歩き始める。
アベルの両腕に抱えられた荷物に手を差し出して「ナイトロード神父、少し持ちます」と声を掛ける[#da=1#]。
しかし遠慮がちに笑って見せた長身の神父は「今から沢山の荷物を背負うあなたには、この荷物は重過ぎます」と、優しく答えた。
………………………
加筆修正作業を行いました。
(20210723)
(20220307)
2万打超えありがとうございます
こんな小説しか書けないシガナイ管理人でありますが、皆様どうぞ今後ともよろしくお願いします*
ありがとうございました~
雷鳴 廻琉 拝