- Trinity Blood -2章
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話が遡る事、一週間前。
[#da=1#]・[#da=2#]神父はカテリーナ・スフォルツァ枢機卿を訪ねていた。
目の前に座ったこの幼い少年――いや、彼は外見は兎も角立派な青年なのだが。
彼が珍しく用事があるというので時間を割いてみれば、持ってきた書類をテーブルへ置いて、比較的寡黙な筈の[#da=1#]が10年前の記事について話し始めた。
そして、どうしても気になる事があるからこの疑問を解決したいと言ってきた。
何故気になったのか、そこが分からないのだそうだ。
少しの間ここローマから離れる事、現地へ赴きたいという話だった。
「ロウディ=ヴァッハ…――第一被害者の」
「…はい」
新聞を読んで記事に疑問を感じ、これについて調べたいと、こんな話は彼が聖務に就いてからは初めての話だった。
持ってきた新聞はもう10年も前の記事である。
幼い少年へと問い掛ける。
「何の意味があるというのです?」
スフォルツァ枢機卿は置かれた資料と新聞紙へ目をやらずに彼の話に耳を傾けていた。
何故こんな記事に興味を持ったのか、そちらの方が気になったからだ。
「それも任務ではなく、個人的な疑問解決の為の調査とは…」
普段主張をする事が無い[#da=1#]が言い出した調査について。
調査申請書を片手に説明をしてくれたが彼が疑問に思ったという項目に関しては、確かに興味を引かれる事柄があった。
ただ、単独での調査を行う旨を話した時一番に異を唱えたのは何故か、トレス・イクス神父だった。
端正な顔立ちの小柄な神父はそれまで一切の発言がなく、まるで家具か柱かと言わんばかり無言で佇んでいたが、何故か突然発言したのだ。
少年の行動は目に余ると、何故か意見し始める。
勿論別段彼に問題行動等見られない。
どの様に『目に余る行動』を取っているのか。
説明を始めるトレスに、耳を傾けた。
「目標の前に躊躇なく飛び出す」
「回復手段があり復帰が早い為、損傷を意ともしない」
意見は的を得ている。
[#da=1#]の『目に余る行動』についての説明を聞いている筈なのに。
それは発言者であるトレス・イクス神父にも言える事だ。
普段どれだけの建造物などの破壊、破損個所の復旧工事の出費、半壊して…いや歩行困難になった状態で保護された時の修復や修理について何度頭を抱えた事だろう。
[#da=1#]もこのトレスにだけは、言われたくないだろうに。
カテリーナは額に手を置いた。
ぶつかった疑問が解決しない事がどれほど注意散漫を生むか、も知ってはいるつもりだ。
特に[#da=1#]は探究心に貪欲であり、疑問に対して強い興味を持っていて、その疑問を解決する事に強い欲を持っている。
戸惑う様子を見せながらも、何とかこの疑問を解決したいという心の奥で湧き上がっている感情に、鳶色の瞳を持つ麗人は「分かりました」と言葉を発した。
「ミラノ公、この任務は不要だ」
『カテリーナ様…!』
トレスとシスター・ケイトの声が重なる。
「ただしこの調査を行うにあたって条件があります」
3人がカテリーナの方へと集中する。
「トレス・イクス神父が同行します。単独行動は赦しません」
「…了解した」
『そんな、反対ですわ――』
カテリーナの指示に納得した為か、トレスは途端に沈黙する。
しかしこの決定に難を唱えたのはシスター・ケイト。
緋の法衣を纏った彼女の美しい指先が、テーブルへ置かれた書類を手にした。
『これからの予定だって立て込んでいるのですよ?』
勿論百も承知。
やや不満そうに呟くケイトの言わんとしている事は分かる。
しかしながら、これ以上の問答は時間の無駄だ。
教皇庁ではこれから控えている行事などを考えると、人員を残しておきたいシスター・ケイトの言い分は間違っていない。
2名のもの人員を割いて個人的な調査を行う際に派遣執行官を向かわせる必要など、欠片もない。
そもそもこれは何かが問題になっているという事柄ではない。
記事を見てふと疑問に思った事を解決したいという、ただそれだけなのだ。
任務ではないのだから。
単独で行かせるが可能であるなら、それが一番ではある。
今人員を割くのは本意ではないからだ。
しかし何故か。
一番に反対したのがシスター・ケイトではなく、トレス・イクス神父だった。
何故かは分からないけれど。
[#da=1#]が僅かに下を向いたのを、カテリーナは見逃さなかった。
行ける事にはなったけど…――
トレスの同行が最低条件となってしまった。
個人的な疑問の解決として調査に行きたいだけだった[#da=1#]にとっては申し訳ない展開だった。
行きたい。
行ける。
ただ、単独では赦されない。
個人的な疑問の解決に、人を巻き込む形になってしまった事に戸惑いを隠せなかった。
前髪で器用にその瞳を隠していても動揺が見て取れる。
その様子を見ていたカテリーナは小さくため息をついた。
『カテリーナ様…何かあった際は動ける派遣執行官が2名しかいませんのよ?』
今いるのは’教授’、ユーグの2名。
大学にて講師として教鞭をとる彼と、彼を師と仰ぐ剣の使い手。
1名は確実な戦力とは言えず、何かあった際は別件で動く残りの4名を召還しなければならない事になりかねない。
その通りなんだが。
しかし。
トレスを同行させると言い切ったのだからこれは正式な調査として始まる事になる。
「これは調査です、[#da=1#]・[#da=2#]神父。必ず報告書類を提出する様に」
緋の法衣を纏った麗人は、そう言って書類を纏め、テーブルの端へと片付ける。
「スケジュールの調整は任せます」
「承知しました、スフォルツァ枢機卿…必ず」
「肯定」
途端。
トレスの機械音が、小さく室内に響く。
「同行を」
「はい…」
促されて部屋を後にする。
『カテリーナ様…――』
あとに残されたシスター・ケイトは、カテリーナの方へと振り返る。
彼女の言わんとしている事はよく分かっている。
「いいのです、シスター・ケイト」
そしてカテリーナが遮った意味も、シスター・ケイトには分かっている。
個人的な意思や興味で調査を申し出るケースは少なくない。
派遣執行官は本来単独での行動が多い。
任務に支障が無い様に、招集が掛けられた際は急行する、行ってももいいかと許可を貰いに来たのだから驚きを隠せなかった。
自分だけでなく他人の傷をも癒す能力を持つ幼いこの少年を近くに置いて非常事態に備えたいのが正直なところだが、やりたい事があると言われたら引き止めるのにはそれなりに理由が要る。
「神父トレスがあの場で強く『同行を希望』したのだから、これで彼女の…いいえ、神父[#da=1#]の身の安全は保障されました」
『ええ…神父トレスの、あの場での行動には驚きました』
シスター・ケイトは扉の向こうへ消えた2人を追う様に、その瞳を向けている。
どうか彼を、[#da=1#]・[#da=2#]神父を無事帰還させて下さいね…トレス――
カテリーナの鳶色の瞳は、今しがたテーブルの端へ寄せた書類へと向いていた。
あとでこの書類を、時間を作って読み返してみたいと思ったのだ。
・
扉をくぐってすぐ。
廊下から少し離れた場所にある、窓の端へ寄る。
隙の無い動作でこちらへ振り返った、端正な顔立ちの小柄な神父。
僅かな機械音が聞こえる。
「[#da=1#]・[#da=2#]神父は明日8時に定期開催される東部地区にある聖マリアンヌ教会に、テロの予告を出されている集会に出席しこれを阻止する任務に当たっている」
ご丁寧にそのテロ予告は難解な暗号を敷き詰めた様なものだったが、’教授’が主となり暗号を解いて明確な答えが出た後だ。
念の為最後まで気にしていた西部地区にある、同じ名の聖マリアンヌ教会には、国務聖省特務分室からシスターが足を運ぶ手筈になっている。
この暗号の解読には[#da=1#]も参加していた為、正解がどちらなのか、真相が気になって仕方ない所だった。
短く「はい」と返事を返す。
小さく掠れた声ではあるが、[#da=1#]の声は不思議とはっきり耳へ届く。
返事を待って、トレスは「俺は明後日は早朝から昼の定例会議迄ミラノ公の聖務に同行する予定だ」と続ける。
廊下には見える限り2人しか居ない。
お互い予定は詰まっているという事はよく理解している。
「明後日17時をもって[#da=1#]・[#da=2#]神父と現地へ調査に向かう。修正があれば回答の入力を」
先程もカテリーナに『調査』だと言われたところだ。
改めてトレスに釘を刺されてしまった。
「はい…」
短く返事をして、前髪で器用に隠れたその瞳は足元へ視線を落とした。
とはいえ、調査を行う事は赦された。
今すぐにもこの調査には向かいたい。
しかし明日は早朝からは定期集会の任務へつかないといけない。
逸る気持ちを抑えながら、####は頷くしかなかった。
明後日の17時迄は動けない事が確定した。
まあ10年前の案件で、街は時が止まっている様だから、この街は逃げも隠れもする事は無いだろう。
ただ次の日、自爆テロを阻止しようと主犯に飛び掛かって一時重傷を負う事など誰にも予想がつかなかった。
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20220214
大幅な加筆修正を行いました。
新作か?って思う位めちゃくちゃ加筆しました。
もうほぼ原形残って無いです…
現在でもあまり文才ないですが
まさかこんなに過去の自分に悩まされると思わなかったです…
ただただしんどかった…
いやこの話まだまだ続くからここから先なんですよね…この戦いは…
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