- Trinity Blood -2章
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「あの…っ!」
掌に乗る程の小包を貰った。
燃える女心を表したかの様な赤い色を模した包み。
リボンはこれでもかというほど男心をくすぐる可愛らしいデザインのものだ。
まだ寒さが厳しい2月。
「――…え?」
「お願い貰って…!お兄ちゃんっ!」
街の様子をいつもの様にただ、眺めに来ただけ。
「あ、いや」
「じゃあっ」
踵を返して走り去る、ブロンドが似合う可愛い少女。
その娘を覚えていない訳ではない。
よく母親に連れられて街に買い物に来ていた少女だった。
知った顔だとしても、時折外出を赦された時に見掛ける程度の間柄ではある。
ただ街ですれ違う程度の自分がこんなものを貰ってもいいのだろうか。
どうしたらいいか分からないまま[#da=1#]は噴水の傍のベンチへ腰を掛けて、ぼんやりと街を眺めていた。
冷え切った空からは、風に連れられて降り立った白い天使達が次々に大地との温度差で消えていく。
幾時間経っただろうか。
結局まだあの娘は戻らず、自分にこの包みを預けたまま。
流石に2月。
日照時間は短く、太陽が上がっている時間が少ない。
昼を超えてしまうと段々と気温も下がってくる。
しかし自分の体温を感じる事でさえも苦になる[#da=1#]にはこの時期の外も、あまり嫌いではない。
段々と人通りが少なくなり、急いで家に入る老人、子供を急かしながら慌てて買い物を済ませる主婦の姿がちらほら残るだけとなった。
「何かの間違いだった」と言いながら小包を取りに来てくれないかと、手元の赤い小包みを乱暴に扱わない様に注意を払っていた。
困ったな…
小さく息を吐くとその吐息は白く広がって、すぐ傍で消える。
往来する人の賑やかな声が聞こえなくなってしまうのはつまらない。
雪を見るのは嫌いじゃないが、新聞が雪で汚れてしまうし古新聞は出せないし、人通りもまばらになってしまった。
あの少女は2時間以上戻ってこないし、もう戻ってくる事も無いだろうと諦めて立ち上がる。
と。
聞こえたのは耳の鼓膜に僅かに信号を与える音。小さく鳴ったその音は、耳についたカフスからである。
『やぁ[#da=1#]君――
外出中かな?』
聞こえてきたのは優しい声。
心地の良い声だから、[#da=1#]は彼の声が大好きだった。
「はい、ワーズワース神父」
『そろそろお茶会を始めようと思うんだが、どうかな?』
そういえば誘いを受けた、お茶会の日だ。
[#da=1#]だけでなく、時折誰か別の者も参加している様だが、よく珍しいお茶やお菓子を振る舞ってくれる。
「すぐに帰ります」
『待っているよ』
小さな赤い小包をその手に乗せ、慎重に、しかし少し足早に歩き出すと『一人かい?』と声を掛けて来る。
一人で歩くのには少し長く暇な道程だからと、’教授’はよく話し相手になってくれる。
「はい」
[#da=1#]の声は小さいものだが’教授’にはその声がはっきりと聞きとれる。
『君は特別なお茶会仲間だからね』
その言葉を聞いた瞬間、足が止まった。
聞きなれない言葉。
今『特別』と、言われなかったか?
『あの…』
子供が「なんでなの?」「どうしてなの?」と聞くのを、まるで待っていたかの様に、’教授’は耳を澄ましている。
足が止まった事も、気が付いていた。
指摘する事も無く、急かす事も無く、立ち止まったままのその足が動かない事に苛立つ事などない。
むしろ感情を見せてくれる彼へ、喜びが隠せない。
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