- Trinity Blood -1章
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雷と共に雨が降り出した。
あまりに雨が大きな音で鳴るので、せっかく気持ち良く昼寝していたのが台無しになってしまった。
「…[#da=1#]?」
[#da=1#]が居ない事に気が付いたのは、ベッド上で身体を起こした時。
――拳銃屋じゃあるまいし外見回ってる訳ねえよな?
見渡した感じ、小柄な神父は見当たらない。
耳のカフスが小さな音を立てたのはその時だった。
「おう、どうした」
面倒臭そうに答え、[#da=1#]を探す為に立ち上がる。
『あ、レオンさん?』
飛び込んで来た声の主はアベルだった。
「何だへっぽこかよ。…仕事以外で通信使って良いいんか?」
広い部屋だが、[#da=1#]はすぐに見付かると思って見当を付けて周囲を見渡しながら歩き出す。
彼は断りもなく外に出る事はない。
この新生の高級ホテルで標的がテロを目的の商談に、ここ数日間の間に商談を行う情報を入手したのだ。
レオンは洗面所を通り越しトイレを見て、まさかと思いながらクローゼットの中を覗いてたが、彼は居ない様だった。
『あ、酷いですねぇ。ちゃんと仕事の話ですよっ。実は例の件で、[#da=1#]さんと話したかったんですけど通信に応答が無くて…』
こんな事はあまり無い方なんですが…と続けるアベルの声をぼんやり聞きながら、レオンは左右を見渡している。
廊下に出ている様子も、レストランに行っている風でもない。
仮にも任務遂行中だ。
彼が黙って外に出掛ける事なんて。
いよいよ探す所なんてない。
「目につく所にはいねえよ」
頭を抱えたくなる。
『そんな…近くに居ないんですか?』
「いやな…俺も探してる所なんだがな」
扉を開けて部屋を覗き込んでも誰もいない。
ここまでくればもう途方に暮れてしまう。
起き上がったそのベッドへ戻り、端へ座った途端。
『…あ、あ…!!レオンさん、浴室です!急いで!』
カフスの向こうでアベルが焦った様子で浴室へ行くように急かす。
「は?何でだよ…」
後ろから背中を押されるようにして立ち上がり、しかしレオンはアベルの声に妙な焦りを感じて。
『いいから早く!ああっ…また発作が出たんでしょうか…?!』
カフスの向こうのアベルに急かされてつつ、どこか緊張を隠せないままで浴室の扉を開けるが、目的の人物は見当たらなかった。
「…いねえよ」
心底安心した。
少し苛立った様子の口調で言ったレオンに『そんな…では一体どこに?』アベルは首を傾げている様だった。
「俺はお前さんが浴室に居るって言い切ったその意味が知りてぇが?」
『――あの…レオンさんもしかして』
嫌な予感、と心の声が聞こえてきそうな程、言いにくそうな様子のアベル。
『もしかしてその…雨とか――降ってませんか?』
「降ってるぜ。五月蠅くて昼寝も台無しだわ」
『あの…バルコニーかテラスか…何かこう、外に出るスペースはありますか?!』
「あ?おう…あるぜ?」
外のバルコニーに目をやると、見えたのはベッドからは死角になっていた腰程の高さのブロック塀。
その端の塀に座って…いや、丸まっている様に見えた人らしきの姿。
薄暗くなっていた空に紛れてはっきり見えていなかったが、どう見てもあれは探し人だ。
「[#da=1#]…っ!!」
驚くべきスピードで走り出したレオンは、あっという間にバルコニーに向かう扉のノブを握っていた。
テラスに向かう扉に付いた鈴が乱雑な音を奏でるが、その鈴の音も開いたその先の雨音に掻き消される。
小さなその身体は、雨を吸い込んだ僧衣でずっしりと重さが加わっている。
しかしこの大漢にはそんなもの弊害にもならない。
[#da=1#]を抱えて雨の入らない部屋に入り込む。
「おいっ!何やってんだお前…っ!」
『待って下さいレオンさん!発作です!触らないで…!』
「おい!発作ってなんだ?!そんな情報貰ってねえぞ!」
カフスの向こうでアベルが確かに「発作」だと言った。
それも、聞き逃していなかったら1回ではない。
『危険ですレオンさん、[#da=1#]さんから離れて…っ!』
アベルの制止の声に従っている場合ではない。
このままでは風邪をひくと思い上着を剥ぎ取った。
上着がずしりと音を上げて床へ落ちる。
『いけない!レオンさん!』
蹲った小柄な神父を抱き上げ、濡れ切ったその衣服を脱がそうとしたその時。
「離せ…っやめろっ!!」
それはアベルの発した声ではなかった。
掠れた声で、しかし普段耳によく届く不思議な音域を持つ、目の前の幼い神父からだった。
普段からは考えられない、荒立った声が耳に届く。
『レオンさん離れて!危ない!』
左に付けた腕輪が僅かに音を立てる。
同時に右手を引く彼から繰り出された0.1㎜にも満たない絲が空中で閃いた。
向かい来る右手を受け止めたレオンは自分を通して別の誰かに怯えている事に気が付いていた。
相手は、分からないが。
普段前髪で器用に隠れたその瞳が、雨ですっかり濡れて赤に近い茶色の瞳を隠す事なく晒している。
赫く揺らぐその瞳が何かを捉えている。
首には掛からなかったが、流石トレスとよく任務に就いているだけある。
素早く、鋭い。
レオンの手首には絲が絡まっていた。
この手を、離したら。
しかしそんな事はこの際些細な事。
目の前の、この少年が。
いや、幼く見えるがもう青年であるこの神父が。
普段の様子とは打って変わって、自分へ殺意を向けているこの子供が。
追い詰められた鼠の様にその瞳は怯えて、今にも噛みつきそうな勢いでこちらを向いている。
「おい…俺はどうすればいいんだ?」
この手を押さえる事は大漢にとって、容易い。
しかしこの状況は。
『ご無事ですかレオンさん…!』
アベルは細心の注意を払ってそう言った。
「おいおい冗談だろ…今この瞬間、俺左手失いそうなんだが…」
ため息一つ。
「とりあえず一回休戦しよう、ぜっ」
「!」
元軍人であるレオンにとって、制圧は正に得意分野だった。
勿論この青年も派遣執行官として一連の武術は習得していると思うが、力には差があり過ぎる。
後ろを取ると、そのまま首を軽く圧迫する。
「ぅ…っ」
『[#da=1#]さん?!…レオンさん一体何を?!』
短い呻き声に驚いたアベルがレオンに呼び掛ける。
しかし「心配すんな、ちょっと寝て貰っただけだよ」と返事を返した。
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