- Trinity Blood -1章
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8歳の少女には、目の前で起こっている事が分からなかった。
街を出た兄が帰ってきて――
街が焼失した。
吸血鬼が、散策している。
文字通り散策しているのだ。
口元には笑みを浮かべて、鼻歌を歌っている者も居た。
逃げ惑う街の人。
中央の広場に集められた一つの家族。
積み上げられた住民。
積み上がったその全てが、虫の息だった。
辺りを燃やす炎が、その表情を時々照らしている。
これは兄だった者だろうか。
表情などすっかり変わってしまっている。
研究者としてどこかの国へ行ったと聞いて以降一度も会わなかった。
兄と別れたのは、5つか6つの頃だった。
久しく会わなかった兄の表情は正に別人。
何があったのか分からない。
10歳以上年の離れた兄だった。
今の彼は、記憶が間違っていなければ19歳になっている筈。
「やめて[#da=1#]…っ!どうして?!」
母の声が響いたのはその時だった。
吸血鬼達は、隅々まで練り歩き、街の人の生き血を啜る。
無理矢理人としての役目を終えさせられた人達は、この広場の中心に積み上げられている。
父親の首を片手で持ち上げた兄を、止めようと声を上げたのだ。
しかしその声が届いている筈の兄は母を振り返る事は無かった。
次の瞬間父の首を切り落とす。
声も立てる隙が無いまま事切れる父親。
「きゃあぁぁっ?!!」
その場にだらりと倒れる父の変わり果てた姿。
駆け寄る母親。
呼吸の仕方を忘れてしまいそうだった。
兄は笑っている。
子供の目から見ても、兄は笑っていた。
目の前で父が倒れ、母がすり寄っているのに兄は笑っている。
「俺を知ってる奴を…全て殺す。俺は人間であった俺を消す」
街の人達が、中央に次々と積み上がっていく。
積み上がっていくと比例して周囲から上がっていた悲鳴が聞こえなくなってきた。
「あなた…っ」
すっかり返事をしなくなったままの変わり果てた姿に縋って泣く母の声を聴きながら。
兄であった筈の男がこちらへ進んでくる。
足の動かし方など、忘れてしまった様に動けない身体。
後ろで転がった肉体にしたのと同じく、男は片手で子供の首を掴んで持ち上げる。
「やめて[#da=1#]…!あなたの妹よ!」
駆け寄った母は[#da=1#]と呼んだ男に懇願する様に跪き、涙を流した。
「じゃあお前も一緒に死ねっ!」
抵抗が出来ないまま持ち上がったその子供の首を切り付けて死体山に振り落としてから、母の首に向けて同じく切り付けた。
「…ああ…っ」
飛び散る血を楽しそうに見つめ、そのまま死体山へ投げて落とした。
「俺を知る者は全て消してやる…新たな世界を生きるんだ…」
満足気な男の笑い声が、すっかり静かになった世界に響き渡った。
体温を失っていく。
首からとめどなく何かが流れていく。
生暖かい何かが。
残された力で、我が子を抱き締める母親。
どろどろと吹き上げて来るその生暖かいものが顔に当たる。
母が覆い被さる様に横たわる隙間から見えたその男は、悪魔に憑りつかれた様に笑っていた。
「!」
突然男が消え、同時に何かが突き立つ。
突き立ったそれが痛みだと気が付いた時。
「はははっ」
心臓が貫かれた様だった。
母親の悲鳴は短く、その声はすぐに聞こえなくなってしまった。
引き抜かれた剣が少し母のその身体を浮かせたが、抱き締めた子供の重みからか直ぐにその身は死体山の一部となる。
それから何人かの重みが襲い来た。
呼吸ができない。
いや、もうこの死体山の一部となる事を悟っていた。
・
・
・
「せ…生存者発見!」
…誰かいるの?
「こんな…!見て下さい!」
お母さんを助けて…
「ふむ…血は服に沢山付いているが…全くの無傷だね」
無傷…?
「お嬢さん、どこか痛い所はあるかね?」
紳士的な雰囲気を醸し出しているこの男性は一体誰だろうか。
「…心が」
私は…生きている?何故?
「ふむ――
なかなか面白い事をいうね。名前は?」
「…[#da=1#]…
――[#da=1#]・[#da=2#]」
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