- Trinity Blood -1章
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意識が未だ戻らない様子の青年の状態を確認するブラザー・ペテロから少しずつ距離を取る。
ぬ、これは、と声を漏らす彼の下から早く逃げ出したい。
かといって走って逃げる訳にもいかない。
思案しながら慎重に距離を取っていると、巨漢はこちらを向いた。
「傷一つ無いぞ?どういう事だ?」
訝し気な表情が浮かぶブラザー・ペテロの瞳から目を逸らせない。
「…分かりません」
そして「急ぐので…」と会釈をして立ち去ろうとする[#da=1#]の手首に、痛みが走る。
それが自分の掌とは比では無い事に[#da=1#]は焦った。
「!」
「こんなに血を流して無傷だと?」
信じられる筈も無い。
至る所に出血の痕が残っているにも関わらず傷口は跡形も無く塞がっていたのだから。
手加減を知らないのか、手首を掴む彼の手は僅かに痛みを伴う。
腕輪の十字架が小さな音を立てる。
巨漢の掌から熱が伝わる。
掴まれた手の痛みより、体温への恐怖が襲い掛かる。
「そういえばさっき手元が光っているように見えたが?」
呼吸に違和感を覚えた。心臓が煩く鼓動を打つ。
「どんな魔術を使ったかのか説明してもらおう」
「まじゅ……つ?」
手首から伝わる体温が冷静さを蝕んでいく
[#da=1#]はこの壁の様な赤い僧衣の男から逃れようと、腕輪に付いている小さな十字架を引こうと手を伸ばす。
しかしブラザー・ペテロの逆の掌が僅かに早い。
逆の手の自由もその大きな掌に奪われた。
「…い、っ」
勢いで壁に押し付けられる。
背中に衝撃が走る。
一瞬息が出来なかった。
[#da=1#]は背中に走った痛みよりも、身動きできないと悟った力の差に、体温に、恐怖を宿した。
ぐっと顔が近寄ってくる。
「今のは何だ、派遣執行官!」
呼吸ができない。
壁に押し込まれそうだ。
体温が、手首を通して流れ込んでくる。
「それともこの状況を説明できないという事か?」
間近で声を聞いて、軽く耳鳴りがする。背の高さや年齢で言えば随分とペテロには差があり、押しても引いてもびくともしない。
「場合によっては汝を拘束しなければならんのだぞ?」
危険だと感じながら、迫りくるペテロの瞳から逃れる様に目を閉じ、顔を背ける。
再び力が入るその手に、恐怖と痛みが襲い来る。
まるで蛙を睨み付ける蛇の如くき瞳。
意識を手放してしまいそうだ。
膝に力が入らない。
呼吸の仕方が思い出せない。
段々と力のこもる巨漢の手が、[#da=1#]の手首を締め付けていく。
「っ、ん」
掠れた声で悲鳴が漏れ出る。
「待て…汝、本当に神父か?」
勿論彼が、聞き逃す筈もなく。
光の差さないこの小路でさえ分かる、顔を背けた先に見える首筋から覗くその色素の薄い肌に、ペテロは違和感を口にする。
しまった。
観察する様に送られる視線。
近付く壁、いやペテロに、逃れる様に顔を逸らす。
蝕んでくる体温にもう意識を保っていられない。
僅かに緩んだその指から、しかし逃れる事が出来ないこの力の差。
「まさか…いや」
違和感を感じた様子のペテロの呟きが耳には届いていた。
逃げなければ…っ――
冷静でいなければいけない思考が麻痺しかかっている。
「彼を離したまえ」
微かに吹いた風に乗って、パイプの甘い匂いが漂って来た。
「…なに?」
漆黒の闇
「相手を知らない内に他人に気安く触れるのはいただけないね」
それは求めていた存在。
「彼は教皇庁国務聖省特務分室所属、私の大切な同僚だ。君達がたやすく触れて良い様な存在ではないんだ」
パイプを逆の手で口から離し口元に笑顔を浮かべ、強い眼差しで彼を睨み上げる。
「その手を――離したまえ」
いつもならばこんな脅しの類は一喝すれば良い筈だが、杖の先で手を軽く弾かれ、反射的にその手を離す。
掴まれていた部分を気にしながら、教授は傷や痣が無いかを軽く見て頷く。
「行こうか。痛みはないかね?」
安堵の表情を浮かべる[#da=1#]を見て、ワーズワース神父は少し安心した。
あと一歩遅れていたらと思うと、申し訳ない気もしていたが…。
「君はすぐ無理をするからね、困った子だよ」
遅れずに付いて来給えよ、と言いながら先導して歩き出す。
後ろを少し気にしながらも、追い掛ける様にして教授の後を付いていく。
赤い壁に呆然と見送られながら。
大通りに出た時に「教授…どうしてここに?」と自然と声を掛けた。
その答えは甘い香りの煙と共に
「なに――寄り道した子を迎えにね」
そう言って優しい笑みでこちらを振り向く。
「よりみち…」
「[#da=1#]君――
君…無線を切らなかったろう?」
その言葉に[#da=1#]は今更ながら自分が無線を切らなかった事に気付いたのだ。
「全く…困った子だね」
教授のすぐ後ろを歩きながら、[#da=1#]は無線を切った。
……………………
加筆修正を行いました。
少しは育ってるのかな文才…(20210722)
可哀相な微妙キャラになったペテロさん…
ペテロさん好きな方ごめんなさいっ
でも大好きですよ彼は!!
ホント良いキャラです!!
でも教授も好きだし…
欲張ってはいけないんですね~
好きだから出したくて…って感じで、ただただ長い作品になってしまいました…(涙
さて、結局相手は誰だったのでしょう??
この出会いをきっかけに[#da=1#]さんの事が気になり始めるペテロさんと考えるか、[#da=1#]さんを「娘」の様に可愛がり道草をしたら迎えに行ってあげる優しさを持つ教授なのか…?
それを考えるのは…あなた自身です
長いことお付き合い頂きましてありがとうございます!