- Trinity Blood -1章
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「…ガルシア神父」
返事をする人間なんていないのに。
月の夜に君を想う…――
記憶を失くしてから暫く。
ずっと、行動を共にしていた。
それこそ、寝食を共にしていたのだ。
呼び掛ければすぐに飛んできてくれた。
黒く染まった病室に月の光が降り注いでいる。
眠れないと、傍で座ってくれて。
何故か、不安の糸が解れて消えた。
今日は不思議と思い出してしまって、眠れない。
点滴や薬で意識が飛んだ方がよっぽど良い。
だが今日は何故か、点滴は外れている。
新薬の研究が一つ終わったばかりだ。
いわゆる小休止。
早く思い出せ、とも
何故思い出せない、とも
時間が掛かり過ぎだ、とも
言わなかった。
何故か責められる事はなく。
それどころか、ずっと気遣ってくれた。
一日中歩き回る事も。
疲れれば休む事も。
許された。
月が静かに降り注いで。
その月を隠す影は、今日はいない。
ゆっくりと身体を起こした。
足元が覚束ない。
一歩ずつ足を進めて、窓辺に立つ。
病院の窓は、人が抜けるには狭い。
しかし幼い顔立ちのこの神父は、簡単にすり抜けられるだろう。
窓を開けると、風がふんわりと入り込んでくる。
窓の端に追いやられていた簡易の椅子を寄せて座る。
片肘を窓辺に置いて。
街を一望できる高台へと足を運んだあの場所で。
レオンが一度自分の事を話してくれた。
過去を。
多分今後。
この話をする事は無いと思う、と話していた。
できるなら記憶が戻った時に忘れていて欲しいとも言った。
遺伝子操作技術によって造られた「獣人」の子孫である事。
妻にその力を恐れられた事で裏切りに遭い、結果30名もの聖職者を手に掛けた事。
娘が難病で、ミラノの特別病棟で加療中である事。
今は、刑務所で服役中だという事も。
禁固刑は千年であり、任務の度に減刑が約束されている。
娘の安全が保障されるなら、どこにでも身を置くと言った。
記憶が戻った後。
記憶を失った間の記憶が残っている事が無いケースがあると聞いていた。
だから、忘れていた方が良かったのかも知れない。
しかし、気持ちとは裏腹に記憶はあった。
複雑ではあったが、忘れる事にしたい。
ぼやけた月を見上げながら、[#da=1#]は静かに目を閉じた。
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20210919
大幅に加筆修正を行いました。