- Trinity Blood -1章
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月の夜に君を想う…――
なんて。
「けっ…ガラじゃねえ」
金色の瞳は呟いて月を見上げた。
今回は予定外の用事で長く外に居たからか、慣れていた筈の刑務所の匂いも少し鼻につく。
暫くは呼ばれる事も無いと願いたい。
呼ばれる時は大抵が厄介な任務だから、早々に呼び出されては迷惑だが。
拘束具なんて意味が無い。
しかし、ここで大人しくしていれば最愛の娘の命は保障される。
別荘に向かう日の朝、[#da=1#]には会わずに行くつもりだった。
どうしても、会いたくて。
だけどレオンは病院で意識が無いままベッドで横になっていた幼い顔立ちの神父に「またな、」と、髪をそっと撫でた。
柔らかで指通りの良いその髪に触れた時、僅かに身じろいだ。
あの感触が、忘れられない。
あの表情が忘れられない。
あの時、――
レオンは記憶の無かった間の[#da=1#]に、一度だけ話をした。
あの小高い丘の、夕日が見える街を一望できる高台へと足を運んだ所で。
刑務所に入っている事。
娘の事。
少年がどんな反応を示すかは分からなかった。
でも、少し。
話をしてみたいと思ってしまった。
話を聞いている間、[#da=1#]はレオンの僧衣の端を持っていた。
[#da=1#]が自分の事をどう思ったのだろうかと、一抹の不安はあった。
話を終えてから暫く。
何の言葉も発する事はなかった。
自分の事を軽蔑しただろうか。
いや、その通りだろうが。
妻に裏切られ結果30名もの聖職者を手に掛けた事は事実。
消える事が無い過去。
しかし後悔はしていないと、はっきり言った。
赫い瞳は静かに一筋の涙を流した。
それがどんな言葉より強く、重いものであった事に変わりはなかった。
記憶を取り戻したらしい彼女、いや幼い顔立ちの神父は、この話を覚えているのだろうか。
いや、忘れていてもいい。
記憶を取り戻した幼い神父にとっては、もう要らない記憶であって欲しい。
前を向いてくれたらいいのだが。
レオンは静かに目を閉じた。
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20210918
加筆修正を行いました。