- Trinity Blood -1章
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毎日、少しずつ違う道を歩いているが、ただあてもなく歩いている訳ではない様だ。
左右を確認して、見覚えがある景色を探している様だった。
慎重に道を歩いている。
しかし日を重ねるにつれ、焦りが見えている様な印象が積み重なっていく。
[#da=1#]の後ろを付いていったら、いつの間にか世界が開けていた。
そういえば来た事がある様な。
この噴水前に辿り着いた時、少し表情が変わった様に思ったが?
「焦ってんのか?」
[#da=1#]の喉が一度、鳴った。
幼い顔立ちの神父は、その表情を読み取るのが難しい。
勿論前髪で器用に隠れたその瞳を覗き込む様な真似はしない。
彼は瞳を見られる事に恐怖している様だった。
嫌だと、顔に書いてある。
記憶は今、ないけれど。
足を止めた少年は、しかし前を向いて歩き出す。
記憶のない[#da=1#]の傍には「相棒だ」と言ったレオン。
彼は記憶を失くした後から、ずっと彼と時間を共にしていた。
周囲からは気を付けろだの、注意をする様にと言われたが。
印象が悪いとは思わなかった。
決して無理強いをしない、不思議なまでに真摯な彼。
一度、見失ってはいけないと思って手を伸ばし掛けた時に。
あの時手が、止まった。
不思議に思った時に言われた言葉。
「お前は人の体温が苦手だからな」と、確かにそう言った。
意味はあまり、分からなかったが。
いや、聞いてもその時は答えてくれなかった。
記憶探しの糸口になるからと「街を歩こう」と散策を提案したのはレオンだった。
こうやって街を歩いている間も、レオンは数歩後ろに控えてくれている。
しんどいとも、疲れたとも、休憩しようとも提案しない。
レオンは一度も「道案内」と称して前を歩いた事は無い。
歩く場所も[#da=1#]に任せて気が済むまで時間を決めずに好きなだけ歩き回らせていた。
そしてこの、街を一望できる高台へと足を運んだ所でその日一日の散策は終了という合図となるのだ。
階段を登った先の、夕日が見える景色の綺麗な場所。
石の柵へと寄って、身体を預ける。
肘を付いて頭を下げる。
額が付いているのではと思う位。
ため息と言うが正しいか、腹立たしさを含んだ様な何かが漏れている。
「なぁ[#da=1#]…お前が記憶を失くした事を悔やむ必要はないんだぜ?」
だいぶ苦しんでいるのだろう。
レオンの方へ、向く事はなかった。
何も言わずに下を向いたままの[#da=1#]を見て。
いや焦っている同僚を見兼ねて、とうとうレオンは口を挟んだ。
頭を重たげに持ち上げて。
[#da=1#]の赫い瞳は、夕日を捉えて。
「確かに記憶がなきゃ仕事には差し支えるけどな――
けど…記憶なんてもんは無理に探す必要なんてない。今から創ってもいいんだ」
その言葉を聞いて、[#da=1#]はレオンの方を向いた。
「記憶を…今から創る?」
2人の瞳が向かい合った。
「無責任な発言だってのは理解してる」
頼りない笑顔が、いつもと違う様に思った。
いつの時も、レオンは自信満々な瞳で自分を見て…いた様に思うのだが?
途端。
酷く痛い。
頭の奥から何かが蠢く。
「――…レオ、っ」
「へ?」
突然名を呼ばれ、レオンは間の抜けた声を上げた。
「あ…頭が…っ」
[#da=1#]の身体が急にふらりっと身体が後ろへニ、三歩後退した。
柵から離れた身体をレオンの手が捉える。
慎重に触れた、[#da=1#]の肩。
ゆっくりと身体を預けさせる。
酷い眩暈と嗚咽感に襲われたらしい子供は、レオンの腕の中で膝から崩れる様に倒れ込んだ。
その手が縋る様にレオンの僧衣を握った。
「[#da=1#]…っ!」
大量のフラッシュが焚かれている様な感覚。
記憶の箱が突然開いて、流れ込んできた。
忘れていた筈の大量の記憶。
「 」
突然飛び出してきた記憶に追い付かなくなった思考に、耐え切れなくなった身体が悲鳴を上げ、ついに[#da=1#]は意識を手放した。
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白く無機質な部屋。
薬のにおい。
小さな四角い窓。
白い扉は、鉄格子の様にさえ思えた。
ベッドの端で小さく丸まった[#da=1#]が目を開けた。
ここに運ばれたのは8日前。
レオンはここへ[#da=1#]を運んでからすぐ’別荘’に戻ったと聞いた。
また暫く、レオンとは会えないだろう。
新しい点滴は今で4種類目。
朝のを合わせて今日はこれで6種類だ。
体調は安定しているとドクターが言っていたから、3日前から点滴は6種類しか打っていない。
誰かが来る様な気がして、ぼんやりとした瞳で扉を見つめていた。
ただの勘だったかも知れない。
だが、何となくそ誰かが来そうな気がしてずっと扉を見ている。
[#da=1#]がアテも無く扉を見ていたら、さっきまで鉄格子にしか見えなかった白い扉がノックされた。
返事はしなかった。
しかし、扉は開く。
「失礼する」
短く刈った褐色の髪の、端正な容貌を備えた小柄な青年が扉を開けた。
同時に、[#da=1#]は身体を起こす。
「[#da=1#]・イェーガー神父。任務の出動命令が出た。今からスフォルツァ卿のもとに指令を受けに行く。可及的速やかに準備を」
トレスが病室に入って来た。
扉を潜ってベッドの手前で立ち止まり、僅かな機械音と共に任務の内容が書かれた書類を差し出す。
[#da=1#]は終り掛けた点滴を抜き取ると、軽く眩暈のする頭を左右に振ると「すぐ準備します」と静かにそう言って立ち上がった。
!読んだよ!
*別タブが開きます*
………‥‥・・
記憶戻ったよー
良かった…!
記憶の消失を書くのは案外と難しい…
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20210917
加筆修正を行いました。