- Trinity Blood -1章
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一週間は思っていたより早い。
「まあ彼の記憶はこちらでどうなる事でもないし」
ワーズワースは実に言いにくそうに溜め息をつきながら。
レオンから提出された書類をめくっていた。
焦っても仕方が無いとはいえ、内心はとても焦っていた。
「記憶が無い事により任務に支障が出兼ねない事は…紛れもない事実だからね」
ほのかに甘い香りを漂わせ、紳士は静かに書類を閉じる。
この一週間であまり進展がない事にため息をつくのは、ワーズワースだけではない。
「記憶は何としても取り戻したいわ。どんな手を使っても」
窓の方へ鳶色の瞳を向けたら絵具で描いた様な空が映り、その瞳は深い青に染まった。
「それだけ彼の、[#da=1#]君の能力は我々にとって必要だからね」
日々聖務に明け暮れるカテリーナにとって、この問題は予想外の事件に違いない。
酷く疲れた様な瞳をその瞼に隠し、僅かに俯いたのをはっきりと見たからだ。
「必要不可欠である事が、今の彼の存在意義である事は間違いないからね」
書類を片手に立ち上がった教授をその鳶色の瞳で追う事もなく、彼女は静かにため息をついた。
駒だと言いながらも、部下達を信頼している事。
任務には忠実であった[#da=1#]の、偽った性など任務は何ら支障は無い。
たった一名だけ、反対している者も居る。
彼は優し過ぎるが故に、性を偽る事で苦しんでいるのではと主張している。
何度も衝突した。
[#da=1#]本人とも何度か衝突した報告と、苦情を受けている。
厳重注意として何度も指導をしたが隙あらば何度もこの問答を繰り返している様だった。
「彼は自分の意思で是非を訴えられる子だ。記憶を無くした事に対して、貴女が心苦しく思うのは良くない」
教授は今日も同僚のレオンと図書館や街を歩き回っている筈の[#da=1#]へ思いを馳せながらそう言った。
俯いたままの彼女の横顔は、一言「私のせいなのかも、知れないわね」と言った。
「能力の使用は、神父[#da=1#]の生命を削ると報告は受けていた」
能力の高さを高評価し過ぎて、彼を追い詰めていたのでは。
「彼を酷使し過ぎていたのかも、知れない…」
「能力の使用は生命を削るというのは理解していたし、彼は承知したうえで能力を使用している」
言葉を断ち切る。
自分のせいなのだと。
不安を口にする。
彼を大切にしている事が窺える。
心配をしている事もよく分かっている。
だからこそ。
「貴女がそんな風に落ち込めば、彼は記憶を取り戻す事に焦りと不安を感じます、猊下。どうかその様な弱気な発言は慎んで下さい」
鳶色の瞳を曇らせて。
美しい金色の髪が揺れる。
ステッキを片手に扉へと向かう。
扉のノブに手を掛けてから。
少しだけ振り返って’教授’はカテリーナの方を向いた。
「記憶は何としても取り戻す事を彼に約束させています」
[#da=1#]と一緒に街を歩いているだろうレオンに、彼を託す事にしている。
「…記憶を取り戻す事を拒否したら?」
かぶりを振るカテリーナに「彼は記憶を取り戻す事を望んでいると思います。ただ思い出せないだけ…」と伝えてから、廊下へと繋がる扉を開けた。
「…分かっているわ」
そう呟いたのは、彼が目の前の扉から消えてから暫く経った後だった。
*
20210917
加筆修正を行いました。