- Trinity Blood -1章
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記憶の奥底で渦巻く闇が、失くした筈の記憶を鮮明にさせている。
自分の兄であったとしても
どうしても許せない。
幼い顔立ちの神父と対峙した、青年。
青年は、少年の胸にナイフを突き立てていた。
少年は左の腕輪から、一見すると付属品の様な十字架を引き抜いて。
首に何か、細いものが絡まっている。
お互いがお互いの息の根を止める寸前でその手は止まっていた。
少年のその指が微かに動けば、巻かれた絲は男の首を綺麗に掻き切る事が出来る。
一方の青年はナイフを心臓に突き立てられてた。
レオンが見詰める先で、突きつけられたナイフなどものともせずにいる。
お互いに命を取られる寸前だというのに、全く取り乱した様子を見せない。
そして今、この瞬間。
幼い顔立ちの神父は確かに「兄」と、認識している。
どこかに消えてしまったその記憶が、忘れられない憎悪が。
この「兄」と呼んだその青年の首を、切り落とさんとしている。
なのに。
取り乱した様子は、見られなかった。
青年の首に巻き付けられた絲はレオンの左手首に巻き付いたものと同じ。
蜘蛛の糸がちらちらと光の加減で見える様な感じだ。
確かに手が引かれている様な感覚はあるが、その絲は本能的に身の危険を感じてしまう。
光を反射する絲は、[#da=1#]と呼ばれた青年の首の周りで微かにその光を放っていた。
彼への殺意が、半端なものじゃないと言う事が見て取れる。
煙草の煙を纏った男は、一番後ろの窓辺へ立ったまま対峙した2人を見詰めていた。
対峙した2人に、顔色を変える事はない。
むしろこの状況が楽しいと言わんばかりの表情だった。
「…[#da=1#]、彼女は何者ですか?」
「亡霊ですよ…殺した筈です」
長髪の男はそれを聞いて「亡霊、ですか」と含み笑い。
「まあいいでしょう」
男はその長髪を揺らした。
「あの生物学者は内部告発者は射殺したと言っていましたが…ここまで情報が漏れているとは残念です。あの方との取引は、二度と無いでしょうね」
この発言を聞いた時。
生物学者、だと?――
心の中で呟く。
という事は、図らずもこの2人はあのガイン・ハウバーの取引相手。
アベルに頼るしかなかったガイン・ハウバーの行方は未だ知れないが、相手が目の前にいる事が判明した時、レオンは普段感謝などしない神へ感謝した。
それよりも、幼い顔立ちの少年の動向が気になる。
「そして、君も――
この取引の段取りが残念な結果に終わったという事は、君の処分も必ず下るでしょうね」
背中でこの言葉を受ける。
レオンは青年の表情が厳しいものになった事を、見落とさなかった。
「…承知、しております」
恐らくこの青年は、この[#da=1#]と呼ばれた青年は処分される。
いや、しかし。
レオンは確信していた。
[#da=1#]と呼ばれた青年は今。
少年によって――
いや一見少年の様な顔立ちの幼い神父は、しかし立派な青年なのだ。
この幼い顔立ちの神父に、その命を絶たれる。
後ろに控える、長髪の男が手を下さずとも。
長髪の男は煙を上げる。
天井まで上がった煙を目で追いながら、小さく笑う。
「帰ります」
立ち上る煙が消える様に、長髪の男は言葉だけを残して静かに消えた。
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