- Trinity Blood -1章
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「事態は深刻なんですカテリーナさん!」
アベルは声を張り上げていた。それは悲痛な…というより、明らかに悲鳴の声だった。
『落ち着きなさいアベル。リジェネーターの状態は?』
出来るだけ冷静を装って、カテリーナはそう聞いた。
「その…っ!完全に記憶が失くなっていてとにかく事態は深刻なんです…!!」
「だからもっと具体的な説明をしなさい」と突っ込みを入れたくなった。
アベルが口を滑らせる事はないと思うが…――
記憶の無い[#da=1#]が万が一、知られたくない自分の事をレオンに知られる様な事柄に直面してはいけない。
参ったわね――
任務に支障を出す訳にはいかない。
カテリーナはすぐ[#da=1#]を帰還させる方が得策かと考えを巡らせる。
しかし記憶を失った人間を移動するリスクは高い。
途中で取り乱したり、意識を失ったり、混乱して攻撃的になったりと、マイナス面が目立つ。
カテリーナは言葉を瞬時に選び取る。
『万が一の事態を考えてあなたをそちらに送ったのです。
状況はあまり良くありませんが…[#da=2#]神父が記憶を失ったというなら、貴方が彼の代わりに任務を遂行なさい』
「…有難うカテリーナさん」
通信を切ったアベルは、静かにため息をついた。
空を見ても薄く雲が張って太陽は隠れている。
視線を下へ落とし――
右の角から緑色の車が曲がってくる。
ホテルの前で停まった車の中から男が降りてきた。
遥か下に見える一台の車を見てアベルは息を呑んだ。
「あれは…っ!」
生物学者のガイン・ハウバーその人だった。
内部告発があったその男は生物兵器の取引にここへやってくるという情報は確認していた。
やはり情報は正確だった。
一週間以内にここへ来るという事だけははっきりしていたが、正確な日時を取得する事が出来なかった。
調査の途中で、調査員が重傷を負ってしまいそこで情報が途絶えたのだ。
その身より大きなアタッシュケースを携え、ホテルマンと何かを話している。
下のガイン・ハウバーに気取られられない様慎重に頭を引っ込めて、後退る様にバルコニーから室内に向かう扉を開ける。
鈴の音を鳴らさぬように。
バルコニーから部屋へ入ったアベルは、レオンの姿を確認するなり素早く寄った。
レオンはアベルと交代でソファで仮眠を取っていたところだった。
「レオンさん、標的が来ました!任務開始です」
「分かった。[#da=1#]呼んで来い」
そう言って、レオンは立ち上がる。
「分かりました」
任務に[#da=1#]を連れて行くのは正直反対だ。
しかしこちらの情報を掴まれている事も考えた場合、人質として取られたら任務にも支障が出る。
その為、一人にさせる訳に行かないのだ。
現在任務中である事は伝えている。
人質として取られてはいけない為、同行して貰う事も伝えた。
記憶がない以上足手纏いである事も正直に話した。
ただ[#da=1#]本人が身体能力が高い事は分かっている。
傍から離れない様に、それだけは、約束させている。
事態は最悪だな…とため息をついた。
上着はどこだったかと左右を見渡して――
「レオンさん!!」
悪化している事態が、更に悪化している事に気が付いたのは部屋へ呼びに行ったアベルが、まさに旋風の様な勢いで帰ってきたから。
「いないんですよ![#da=1#]さんが居ないんです!!」
「居ない訳ないだろ!!」
「いや、だって…」という声を聞きながら、レオンは寝室へ向かう。
「実際居ないじゃないですか…!」
寝室には、脱ぎ棄てられたままのレオンの上着だけが残っている。
焦っている。
しかし今は[#da=1#]がどこへ行ったか考えている場合ではない。
「探してる場合じゃねえな…俺はフロントだ。フロントマンにはちょいとコネがある。標的の相手探しが先だ」
相手を逃すと厄介になる。
レオンは任務を優先する事にして上着を羽織った。
「え、でも…ああ、[#da=1#]さん一体どこへ…!」
狼狽えるアベルの気持ちは理解できる。
いや、自分が今アベルの様に狼狽える事が出来たらどれだけ良いかとさえ思う。
「もういい、時間が勿体ねえ!とりあえずお前さんはガイン・ハウバーだ。ケイトに連絡しろ!」
「分かりました…っ!」
[#da=1#]の安全を確保をしてやりたかったが、自分の気持ちを抑え込む様にアベルを一喝する。
時間は有限。
アベルは生物学者ガイン・ハウバーの行く先を、レオンはフロントへ不審人物の出入りが無いかの確認を。
2人はそれぞれ、現地へと急ぐ事になった。
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