- Trinity Blood -1章
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「このやろう!邪魔だから帰れ!!」
[#da=1#]を抱き上げながら、レオンは声を上げた。
「だ…だって[#da=1#]さん何も言わないから」
あまりにも彼らしくない台詞も、レオンは怒りのあまり気付けなかった。
バルコニーを潜り、ソファへ移動する。
外傷を確認したが、特に強く打った所は見られなかった。
少し頭部が腫れているのを確認する。
「軽く頭打っただけで外傷がないのが救いだな…」
安心した様に一つため息。
小さな呻き声と共に目を開けた幼い神父は、頭部の痛みに気が付いて、手を添えた。
目を覚ますと、男性が2人。
ソファの傍へ胡坐をかいて座った浅黒の肌を持つ男性と、銀髪を雑に纏めた男性の両方を顔を瞬きをながら交互に眺める。
ゆっくり身体を起こす。
そして掠れた声で、小さく言葉を発した。
「…誰?」
意識が飛んでいたのは僅かな時間だった。
「おい…まさか」
外傷は確認したが、頭部を軽く打っただけだった筈。
しかし事態は思っていたより数段深刻だったという事に気付かされた。
「…[#da=1#]…さん?」
「…わたしの事か?」
二人の顔が向かい合う。
レオンはすぐに[#da=1#]の方へ向き直るが、幼い神父は覗き込むようにこちらを見ていた。
「ま…待て[#da=1#]?!まさかお前」
「レオンさんこれは一体何の冗談でしょうか?!」
2人は目をパチパチさせている。
「じ…自分が誰かも覚えてないのか?」
[#da=1#]は頭痛がする頭を押さえながら、頭を左右に振った。
「…あなた達は私の何ですか?」
『…』
ややあって、アベルが言い訳に困った子供の様な笑顔で彼に話し掛ける。
「別に攫った訳じゃなくてですね…」
「待てコラ!!変な事言うなこのへっぽこ!!」
「いやほら…!大の大人2人がこんな幼い子供と部屋にいると…」
「誘拐なんて一番印象が悪いわ!」
「ま、まあそうですね…レオンさんの強面なら説得力もありますけど」
「俺みたいな’紳士’捉まえて何て言い草だ!」
アベルとレオンの会話…というか言い合いの様な――を聞きながら「さらわれたのか…」と2人の中から拾った言葉を呟いた。
「誤解すんなよ[#da=1#]…俺等は別に攫っちゃねぇぞ」
力を込めて否定するレオンに少し驚いた様子で見詰める[#da=1#]に、レオンはそのまま続けた。
「俺はお前の相棒だ」
「…あい、ぼう?」
「そう。こけて頭打って、そっちで倒れたお前を看てやってるんだ」
自分達はバルコニーで気を失って倒れた[#da=1#]をここに運び込んだ、というのだ。
「…そう、ですか」
疑った。
倒れた時に残る痛みがぼんやりとは、ある。
頭が少し痛いので、これが記憶を失った原因かもしれない。
目が覚めた瞬間痛みがあったので、嘘をついている訳でもなさそうなんだが。
こけて頭をぶつける位、自分は鈍くさい人物なのだろうか。
疑った理由はもう一つある。
彼らが頻りに呼ぶ、自分の名前。
[#da=1#]という名前。
違和感がある。
彼らの思う様に名前がすり替えられている様な。
いや。
そう都合よく記憶を失う事なんてあるのだろうか。
レオンはソファの上でひたすら思案に暮れている[#da=1#]を静かに見詰めていた。
「疑うしかねえよな…」
ため息一つ。
ソファの傍で胡坐をかいて座っていたレオンは「記憶がねえのに、突然『攫った』だの『頭打った』だの『相棒』だのってツラツラと」と続ける。
そしてバリバリと頭を掻いて。
「お前が嘘だと思うなら、俺らがどれだけお前の事を話そうが全部嘘になる」
ソファの端へ肘を付いて覗き込む様に[#da=1#]を見上げ、笑い掛けた。
「お前が本当だと思えそうな事だけ、見てればいい…だろ?」
この子供の様な、笑顔。
嫌いじゃ、なかった様な。
僅かに首を傾げる。
金色のそのレオンの瞳を覗き返した。
知っている、様な。
脳裏に浮かぶ何か。
「レオンさん…そんな…いいんですか?」
「仕方ねえだろ…記憶がないのに、これ以上にこいつに変な印象をを与えたくねえからな」
そう言って立ち上がる。
「そう…ですね」
アベルはレオンの背中をその目で追いながら。
自分が原因になった事を深く後悔していた。
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記憶を取り戻すきっかけになればいいと渡された古新聞を読みながら、ずっと考えていた。
文字なんて目に入らない。
どうして記憶がないのか、それが思い出せなかった。
ただ名前を聞く度、内なる『何か』が自分を掻き立てている様な気がしてならなかった。
レオンと呼ばれた、浅黒の肌の男性。
僧衣を纏っていなければおよそ神父とは言い難いその男は、その僧衣ですらだらしなく着こなしている。
上着もその辺に放り出したまま、今は…一体どこへ。
銀髪を雑に纏めた、頼りなく平たい感じの神父にはバルコニーで倒れたからと『バルコニーを出ない様に』というので、ベッド傍にある出窓に座っている。
広げたその新聞が全く目に入らない。
読む気になれなくて、新聞は丁寧に折りたたんで出窓の傍の椅子へゆっくり置いた。
窓の外をぼんやりと眺める。
窓を開けたいが、風で何が倒れるか分からない。
高い位置にいる事が分かっているから窓を開けない様に言われている。
少し開けたい。
風が恋しい。
外への思いを馳せていたその時。
左から角を曲がってきた黒い車。
大きな車?――
何故か目が離せなくて何となく見ていると、静かに滞在しているホテルの前で停まる。
黒に僅か、青を含んだ様な髪色の青年が運転席から降りる。
その青年が後部座席を開けると、髪の長い紳士が降り立った。
激しい頭痛が[#da=1#]を襲う。
映画の早送りの様な画像が脳内で急速に駆け回り始めた。
耳を塞いでもその耳へ届く悲鳴
逃げ惑う人
凶器めいた笑みで追う影
街の中心に集められた人
父が倒れ
首を切られ
母と貫かれた心臓
重く積み重なる人の、山
体温が消え…
声にならない小さな悲鳴を噛み殺す様に強く瞳を閉じ、頭痛のする頭を抱える様に自らを抱いた。
低く、唸る様に。
「見付けた…っ」
車から降りてきたあの青年は。
消失した筈の記憶を貫く、階下の青年の存在。
[#da=1#]は憎々しげにそう呟く。
頭が割れそうな程の痛みと、そして消えた筈の惨劇に吐き気を覚えながら立ち上がった。
怒りの色を滲ませた彼の瞳が、廊下へ続く扉を睨むように向いて。
扉へ向けて、少しぐらりとしている世界の中へとゆっくりと歩き出した。
…………‥‥‥‥・・・・
急展開。
過去の管理人は急展開が好きだったのか…
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20210901
加筆修正を行いました。