Thriller
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・・side yuchun・・
「あ」
「え、あっ…」
「…っとごめんね、こっちじゃないわ」
わざと急に立ち止まった俺の背中に、なまえがゆっくりぶつかる。
振り返ると何気なくその肩に手を回して向きを逆に変えさせた。
「…あ、え」
「あっち、あの、リビング戻って右手のドア」
「え」
後ろから肩を押す俺の歩みに乗せられて、安定しない歩幅ながら俺の目指すドアまでなまえがたどり着く。
肩越しに片手を伸ばしてドアを開け、彼女の背中に密着したまま部屋へと押し入れた。
CDがギッシリ詰まった棚が壁沿いに2つ。
半分が散らかり、半分が整ったその部屋を見て俺と誰かの部屋と窺い知るや、彼女は俺の背中から離れて一人で立った。
ドア側に居る俺は警戒をさせまいと、リアリティを損なわない程度に柔らかく笑いかける。
「洗面所のタオルきれいだから、雑巾使って」
「………」
「確かジェジュンがこの前買ってきて…ユノに…あ、あったあった、はい」
なまえは胸の前で両手を拳にして握り締めていたが、俺がドアを離れて探した新品の雑巾を目の前に見ると表情が緩んだ。
ありがとう、と解いた手を出して笑いかけてくれる。
俺が触れている間中、緊張しっぱなしだったその背中に何を感じていたかも知らないで。
「どういたしまして」
笑顔を壊す瞬間を想像して、背筋をまた通る何か。
それが肩を通った後首筋で熱く弾けるのを享受した。
そこまできたらもう、無視できないと分かっていて。
「ねえ」
なまえが手をかけ開きかけたドアを、背後から押してゆっくり閉める。
「チャンミン、なんでコップ落としたの?」
「え」
「なんか話してたでしょ」
「あ…」
振り返り、曇る表情。
縮めた距離に彼女が示した少しの緊張も、不安げな表情に巻かれて消える。
「もしかして、さあ」
「……」
「さっき俺が言った、女…っていうの信じてる?」
「………」
無言で眉をしかめるなまえ。
その不機嫌そうな顔を見たとたんに次から次と背筋を駆け巡る何かの姿を、俺はその瞬間ようやく見止めた。
言葉にするなら、これは
『嗜虐心』
そう、そんな感じだ。
誰かが大事に守る繊細で綺麗なものを摘み取ってしまいたい。
そんな歪んだ感情だ。
ああ、チャンミナ、ごめん。
邪魔をする気は無かったんだ。
でも、邪魔をできてしまったから
不安定な彼女を見てしまったから
『邪魔をしたい』
今、そう思ったよ。