Thriller
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
・・side changmin・・
「…そんな女居ません」
「あ、おかえりーチャンミン」
「あ、チャンミン、え、」
「飲み物買いに行ってきました。なまえ、これ好きでしょう?」
「あ、ありがと…」
ドアの後ろで、ガサ、と持ち上げた袋からペットボトルをなまえに見せている、宿舎玄関前。
ユチョニヒョンのくだらない嘘で危うく門前払いをくらいかけていたなまえが不安げな瞳を隠せずにいる。
「…女なんて居ませんよ」
「あ、うん…」
ダメ押しの言葉とともに、少なからず動揺したのだろうなまえの頭を優しく撫でた。
「はい、あがってなまえ。ヒョン、どいて」
「はいはい、どうぞ~」
押さえたままのドアにヒョンが張り付いて、さも親切そうに横を通れよと促す。
僕は用心深くなまえの手を引いて中に入った。
ヒョンはその様子をニヤニヤ見つめている。
…まったく、性格が悪い男だ。
もしかして僕と彼女の間に亀裂が生じれば入り込めるとでも思っているんだろうか。
本気でも無いくせに…
靴を脱ぎながら、思わずそんな感情が顔に漏れ出していたのか
ヒョンが急におどけて笑う。
「そんな顔しないでよー、冗談っすよ、ごめんね?」
いつものクシャっとした柔らかい笑顔。
…だけどどうして、時折この男の笑顔に怖気を感じるんだろう。
亀裂なんて入りはしないのに。
僕にはその自信があるのに。
「いらっしゃい、なまえ」
改めて彼女に言ったユチョニヒョンは、人を惹きつけるための笑顔を見せた。
彼女はとたんに警戒を解いて、計ったように、もらったのと同じ分だけの笑顔でぎこちなく挨拶を返す。
なまえという人はすぐ警戒するけど、心を許すのも早い。
そのわりには久しく会わないでいるとまた最初は警戒から入る、動物みたいな女性だ。
…ユチョニヒョンにはずっと警戒でいいのにな。
もちろんそんな事は言えなくて、僕は彼女の手を引く力を強くし、部屋に連れて入った。
---
部屋のドアを閉める時に僕が強く閉めたせいか、なまえが肩をびくりと揺らす。
「…あ、ごめんなさい、びっくりしました?」
ユチョニヒョンに牽制したつもりがなまえを脅かしてしまうなんて、僕も案外浅はかだ。
慌てて優しく笑いかけ、さっきしたのと同じように頭を撫でる。
こういう時 僕に対してだけは全く警戒を解いて感情を見せてくれる。
おそらく他の誰が同じようにしても彼女は首を振るか無反応のどちらかだ。
でも僕には「うん」と頷いてくれる。
あまり見ない彼女の自己主張。
僕にとってそれがどれほど心地よく快いか、なまえはきっと知らない。
手なずけたつもりはないが、彼女のこんな様子を見ていると
もっともっと甘やかしたい、もっともっと僕に依存してほしい
そう願ってしまう。
ごめんね、ともう一度謝って彼女を優しく抱き寄せると素直な額は僕の胸元に体重をかけた。
これ以上無いほど優しく髪を撫でた後、そのままベッドの端に彼女を押し寄せ、座らせる。
見上げる彼女の瞳はあまりにも無防備で、まっすぐ見つめられると僕の顔は重力に負けて口付けてしまいそうになる。
「…そんな顔しないで?」
額をくっつけ、目を閉じることでギリギリ思いとどまった。
彼女から全く警戒が感じられないので僕は余計に大事にしなければと思う。
それでも彼女に触れたがる唇は頬にだけ押し当ててひとまず満足させ、ベッドから一人離れた。
あらかじめテーブルに用意しておいたコップに、爽やかな音をたてて炭酸を注ぐ。
以前コンビニで、珍しく彼女が自らカゴに入れたペットボトル。
いつもは適当に選んで、特にどれでないといけないとは言わないのに。
「これ、好きなんですよね?」
「……うん」
コップを渡すと少し頬を染めた。
自分の好みや趣味を見抜かれることに恥じらいがあるのだろうか。
こういうとき、本当は僕ももっと強く自己主張をしたいと思っている。
好きだ、と。
声を大にして何度だって伝えたい。
けれどきっとそんな風に強引に詰め寄れば彼女は怯えて逃げ出すだろう。
大事に、大事に。
壊さないように。
僕は喉を刺す炭酸とともに衝動を飲み下して笑いかけた。