Thriller
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生温かい涙の感触。
嗚咽は痛々しく僕の唇まで振動を響かせる。
ただもう渦巻く感情のままに合わせた唇からはきっと、僕の独占欲以外感じられなかったろう。
彼女は恐怖と混乱だけしか感じていないに違いない。
誰が見ても分かるほど不安を抱えていた彼女にこんなことをするなんて、最低だと罵られるだろうか。
大事にしてきたなまえを自ら壊す僕はバカだろうか。
でも唇は想像してきた以上の柔らかさで、僕の理性は一気にどこかへ飛び去ろうと軽やかに羽を広げる。
彼女を守ってきたのはこんな一瞬の快感のためじゃない。
分かっているけれど、この彼女の涙と唇はどうだろう。
混乱と不安と動揺にまみれていた僕にはてきめんじゃないか。
うなじに回した僕の手のひらで顔をそらせないまま、息を探して喘ぎ続けるなまえのかすれた声。
僕はたびたび背筋を通る何かを捕まえられずに、ただ口付けを深くしていった。
止められない。
泣かせているのに。
止まらない。
これで終わってしまうかもしれないのに。
不安をどこかにやりたくて伸ばした舌で、もう一度なまえの唇を割った時
中で待っていた舌が逃げずに僕を出迎えた。
「…っ…!?」
予想外の感触で目を開けると
涙を流す彼女の瞳とまっすぐ視線がぶつかった。
「…………」
まっすぐ 僕を見る濡れた瞳。
その目は僕を非難もせず
恐れもせず
それは
「…なまえ…?」
それはまるで
「笑ってる、の?」
「…………」
少し離して問いかけた僕の唇を見て、彼女は濡れた瞳を伏せ、呟く。
「…嬉しい、から…」
蚊の鳴くような細さの声。
僕は彼女の清潔な声の響きにさっきまでの衝動を失った。
僕を捕らえていた一瞬の快感を凌駕する何かが背筋を駆け抜けて、抱きしめていた腕の力が抜ける。
彼女を腕の中に連れたまま、ベッドの端に倒れこむように腰を下ろした。
「ごめんなさい、チャンミン」
「…………」
目を逸らせないまま無防備に首を振る僕に彼女がいつになくハッキリ言葉を作って手渡す。
「人を好きになるのが初めてだから、どうしたら愛してもらえるか分からなくて」
「…………」
「チャンミンが優しいと嬉しいけど、でも不安で」
「…………」
「私だけがチャンミンを好きなのかと」
「違う」
反射で答えた僕に、彼女がゆっくり頷く。
涙も拭わないままだったので頬から一粒涙が落ちた。
「キス、したら、分かった」
「………」
「チャンミンは私を好きだね」
今までで一番幸せそうな泣き顔で、なまえが ありがとう と告げるのを
僕は、滲む視界で 見届けた。