Opposite
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「あれー。なまえはどうしましたかあ?」
乗り込んだバンの助手席を見て、ジェジュンヒョンがマネージャーさんに聞く。
「今日は先に現場入って待ってるよ」
「おー、一人で現場あ」
「どんどん仕事覚えてきたですねー」
「…きっと迷子なって来られてないですよーぅ!うはんはん!!」
僕の発言をユチョンが鼻で笑った。
笑ってる場合じゃないのに。
この間のことも謝りたいし、ほんとはもっと普通に話したい。
なんで僕は彼女のことをこんな風に言ってしまうんだろう。
悪い魔法使いに呪いでもかけられたみたいだ。
…このままじゃいけない。
着いたらなまえを真っ先に見つけよう。
皆より先に会って、謝ってしまおう。
見られてさえなければ、きっと少しは言いやすいはずだ。
僕は駐車場に入ってすぐに荷物をささっと抱えた。
そして車が止まるなり、ドア側に座るユチョンを押しのけて車外に出る。
「なにはしゃいでんだジュンスは」
「さー…」
マネージャーさんとユチョンの喋る声を背に、ずんずんとテレビ局に進んだ。
渡されていた入館証を見せたら、後は小走りで館内に入る。
楽屋のフロアはなにやら雑多で、人を押しのけながら壁ぞいに自分達の名前を探した。
あった!
勢いよくドアを開けると、ドアを押し返すような手ごたえと共に「わ」と小さななまえの声。
ぶつかってしまったらしい事に気づいて、僕は慌ててドアの裏を見た。
「ごっ…」
「いたー…もー…」
「……!?」
そこに居たのは、なまえのようで、なまえじゃない人。
いや、なまえなんだけど。
「なんでノックせずに開けるかなー…自分の楽屋だからってねー、中に誰も居ないわけないのぐらいわかってんでしょー!?いっつもいっつもそーやって無造作にしてるから…」
「………」
怒ったようにまくしたてるなまえに、僕は言葉の続きも返事も出てこないで、口をポカンと開けていた。
この間、僕が罵ったなまえはこんなじゃなかった。
前はどっちかっていうと、男みたいな性格がそのまま外見ににじみ出てるようなスタイルで
お世辞にもお嬢さんとは言えない感じで…
でも確かに顔立ちは整ってる方だった。だったけど…
後ろからドヤドヤと声が聞こえて、なまえに早く中に入れ、と促される。
「ジュンス居たー、あ、なまえおは…あー!」
「なにぃ、あー!」
「あー?」
「おお」
「おはよーございます!早く入って、廊下混んじゃうから!」
ユチョンを筆頭に僕の後ろに来たジェジュンヒョン、チャンミン、ユノヒョンが、その順を守って廊下で声を上げる。
「カワイクなってるー!」
「ユチョン声大きいっ。いいから入って中!」
そこ廊下だから、となまえが手招きすると、僕を押し込んで皆入ってきた。
僕は押し流されるかたちで楽屋に入る。
「チーフは?」
「そこでディレクターさんと会ったから、そのまま話してます」
「そっか、はい、荷物ここね」
なまえの質問に答えながらも視線を離さないチャンミンにカゴを渡して、一人ずつにカゴを渡していく。
そのつど、「どうしたの」「なにかあったの」とひやかされるほどなまえは変わった。
変わったというか、意識して変えたのが分かる。
服も明るい色を着ているし、髪も切ってきたのかすごく軽くてさわやかだ。
なにより、前はメイクも手抜きだと僕が言ってしまったぐらいだったのに…
「はい、ジュンス」
「………」
「…ジュンスが売ったんでしょ、ケンカ。変わったねぐらい言ったらどーよ」
見つめて黙り込む僕に、なまえは意地悪く言った後、目じりを下げて明るく笑った。
素直に口にするのなら、僕は「キレイだ」と言っただろう。
でも僕はここでまた呪いに苦しまされる。
「お、おっ化粧がうまくなったんじゃないんですかあー」
「はっ…はははははっ!!」
「褒めてないですそれは」
だってほら、ジェジュンヒョンが笑って、チャンミンが突っ込んで。
こんなにすぐ反応が返ってくるほどみんなの注目を浴びてたんだから。
…どんなに褒めたいと思っていたって、呪いがかかった僕にできるわけがない。
「…はいはい、どーせメイクさんの力ですよーっ」
「ああ、メイクさんがしてくれただから、キレイなのか」
「うん、メイクさんも早めに来てたから、あたしが春物着て来たの見てメイクも春っぽくしたらって」
「似合ってますよー」
「…ありがと、『メイクさんに』伝えてくるー」
珍しいチャンミンの素直な褒め言葉にお礼を言ったものの、なまえは憎まれ口よろしく「メイクさん」をわざと強調して楽屋を出て行った。
「…ジュンスのせいですよー、僕真剣に言ったのに…」
「ジュンちゃあーん…」
「…ユノだって褒めてないんじゃないんですかあー」
チャンミンとジェジュンヒョンに責められて僕がうつむいてる間にバタン、とドアが閉まる音がした。
顔を上げると、僕の周りの二人以外、ユノヒョンしか居ない事に気づく。
そういえばユチョンは、一番最初になまえを褒めたきり、さっきまで一言も喋ってなかった。
僕は嫌な予感がした。
たいていの場合、悲しみや絶望は急にやってくる事を僕は知っている。
ああ、どうか神様
取り返しがつかなくなる前に
僕にかかった呪いを解いて。