Opposite
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「なまえっ」
「………」
マンションの高層に位置する宿舎のドアの前、真っ暗な空に向かって、彼女は携帯を見ている。
その顔は仕事の顔だ。僕に背を向け、返事もしない。
「ほ、ほんとに…ダメですか…っ?」
僕は彼女の態度にたまらなくなって言い募る。
携帯をパチン、と閉じ、彼女は僕の方を見もせずに言った。
「ダメ」
「どうしてですかっ」
お互い思っているのになぜ。
掴みかかりそうな僕を制するように与えられた彼女の言葉に、僕はそれ以上何も言えなくなる。
「今は、ダメ」
…じゃあいつですかっ?なんて聞かないでね。
僕の言葉の癖を真似て言うと、手元で光る携帯を確かめ、彼女はエレベータに向かい歩き出した。
どうしていいか分からず付いていく僕に、言い聞かせるように彼女は続ける。
「チーフが来たから帰るけど…明日も仕事があるんだから、夜更かししちゃダメだからね?」
「…っ」
僕との間に仕事という関係しか無いと見せ付ける彼女の態度に、僕は捨てられた犬のように追いすがるしかできない。
エレベーターのボタンを押して、彼女はようやく振り返る。
引き止める方法は無いのかと思いを巡らせるけれど、僕は結局無策のまま、彼女に向かい合った。
どうしたら、なまえは僕を好きだと言ってくれるの?
どうしたら、なまえは僕のものになる?
その心からの訴えを載せたままの目でしか、彼女を見ることはできなさそうだ。
「それから…」
彼女の声を耳でのみ感じながら向けられた僕の哀愁たっぷりの目は、言葉を紡ぐ彼女の表情をまっすぐ映して、その色を変えた。
「…スタッフさんのナンパ。…ジュンスは特に、しちゃダメだからね?」
目の前にあるのは、あの
柔らかな風に撫でられた日のように、幸せそうな
いや、ともすればもっと綺麗な
##NAME##の笑顔。
仕事なんかじゃけしてない、プライベートの笑顔に僕は、幸せな未来を確信して嬉しくなる。
僕が「はいっ」と活発に頷くのを「声が大きい」と困ったように笑って、なまえはエレベーターに乗り込んだ。
「また明日」
そう約束する彼女の笑顔をもう少し見たくて、僕は閉まりかけたエレベーターを止める。
これだけは聞きたい。いや、聞いておかなきゃ。
僕は望み続けたものを掴もうと、彼女に問いかけた。
「あのっ…なまえ?」
「ん?」
「僕のこと…すきですかっ…?」
なまえは僕の質問に少しだけ躊躇って、笑みの大きくなる口を一度押さえてから、僕を見た。
そしてゆっくり口を開く。
「……うん、す…」
甘い声で頷く彼女の色づいた頬に、満足を確信した僕が思わず手を伸ばした時。
僕がずっと触れたかった、目を開けている彼女の柔らかい頬に触れかけた、まさにその時。
「!!!!…はっ…!!は、早く、部屋入って寝なさいっ!」
急に仕事の口調になったなまえに、僕はどんと突き飛ばされる。
エレベーターの前でしりもちをついてポカンとする僕に、なまえは「おやすみっ!」とドアを閉め、降りていった。
何が起きたか分からない僕の後ろで、「あーあ…」と声がする。
振り返ると、宿舎のドアの隙間で、買った覚えの無いトーテムポールがこちらを見ていた。
「…こないだまでの誰かさんと一緒じゃん、あれ…」
一番下の顔が呟くと、上の3つの顔が頷いてドアが閉まる。
…こないだまでの?
それって…
僕は自分が彼女にしてきた事を思い返した。
「う、うそぉ……」
僕だけじゃなく、彼女にも同じ呪いがかかってる事に気付いて、僕は情けなくうなだれる。
これから先も、人前では絶対に触れることができないらしい、なまえの柔らかな頬。
言いかけて止まってしまった、僕が求めていた言葉。
「ああ〜………」
諦められない僕は、どこまでも意地悪な神様を探して真っ暗な空を仰ぎ、呟いた。
「神様、お願いだから…」
好きって 聞かせて。
END
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