Opposite
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開いたそこには、じとっと空気の動かない暗い階段。
耳をそばだてても何の音も聞こえず、誰の姿も見当たらない。
「…ユチョン…?」
呼んでみたけれど返事も無いので、近くには居ないことが分かる。
「…居ないんじゃないですかあ…」
僕は、はあ、と息をついた。
紛れもなく安心している。
…どうして安心したんだろう。
二人に僕が知っているとバレずにすんだから?
気持ちを捨て去らずにすんだから?
変わらず叫ぶこの鼓動を、僕は気付かずに守っているんだろうか。
押し黙れば何も聞こえなくなるこの非常階段は、僕の心を暗がりで露にしてしまいそうで
僕はたまらず背にしていたドアを開けた。
「ぅわっ…」
「えっ、わ!!」
ドアの動きに沿って倒れこむ背中が見えてとっさに支える。
「あ、ジュン、ス…」
「なまえっ?」
胸の中で逆さに僕を見上げるなまえ。
僕は胸を強く叩く鼓動が聞こえるのじゃないかと、慌てて彼女の背中を離し前を向いた。
そこには、見覚えのある顔。
「あ、…あー…お疲れ様でーす…」
この間の知らない男だ。
ここのスタッフだったのか。
僕は言葉は返さず会釈だけした。
「あー…彼氏なの?」
「はっ?い、いや、うちのタレントですよ!知ってるでしょ、何言ってんですか!」
「やー前も会ったし、邪魔されてんのかなあと思って…」
チラチラと僕を見ながら妙に早口でなまえに話しかけている。
僕が会話を理解しているか気にしているようだ。
分かりにくく喋られているせいもあって話が見えないけれど、なんとなく分かる。
今といい前といい、この男はなまえを困らせているんだ。
じゃなきゃこんなところでこんなドアに張り付くような形で、会話なんてするものか。
「えーと、あの、私も彼も仕事で来てるので!」
「あ、ちょっちょ、待って待って、じゃあ終わったらさ!もう一人のマネージャーさんも誘ってさ」
「いや、ちょ、困ります…この後もスケジュール入ってますし」
「あー、じゃあまた連絡するから、次の日程のこともあるしさ、携帯…」
やけに早口で喋るその男の日本語を僕はほとんど聞き取れないけれど、なまえが断りにくそうにするという事は相当しつこいのだろう。
僕は無造作に割って入った。
「なまえ、ユチョンは?」
「え、あ、たぶんスタジオ…」
「衣装変わたからぁ、呼びに行かないとですよぅ」
「え、そうなの?うそ、もう撮影ギリギリなのに、ちょっと、すいませんどいてください」
仕事の顔になったなまえが僕を引っ張って、突っ立ったままの男の横を通り抜ける。
男が舌打ちをしたのが聞こえた。
僕はムっとしたけれど、なまえが何も言わないので通り過ぎようとする。
「たいした女でもねーのに…じゃあ最初っから時間使わすなよなー…」
ボソっと呟いたのが聞こえて、思わず振り返ってしまった。
あまり意味は分からなかったけど、大体のニュアンスで判断する。
立ち止まった僕を、なまえが「いいから、話に付き合ったあたしが悪いんだから」となだめたので確信した。
こいつは、なまえを蔑んだ。
「二度と話しかけるな!!」
あまり出さないような声だと、自分で思った。
こんな声で誰かを罵るなんて、チャンミンがうるさくてしょうがない時だって無い。
「ジュンス…」
前ではその男が僕の大声にびっくりしていて、後ろではなまえがびっくりしている。
何か言いたげなその男を無視して踵を返すと、なまえを連れて歩き出した。
なまえは律儀に頭を下げてからついてくる。