My little princess
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僕のすがるような眼差しに眉根を下げて笑いかけ、クセのある僕の髪をクシャっと掻き混ぜる。
そしてピアノに背を向けて座りなおすと、丸くなった楽譜を一つ一つ、後ろのゴミ箱に投げ入れていく。
「ほーんと…もったいないよなあ…」
「ヒョン、ヒョン、それ、捨てないで…」
「はは、可愛い台詞」
茶化すようなユチョニヒョンの声は暗い響きを増していた。
投げ入れられていく楽譜はときおりゴミ箱からはずれ、床に転がる。
「おれさー、お母さん外国いるんだよ」
「知ってます…」
「弟も」
「知ってます…ヒョン、楽譜」
「おれは自分で選んで来たんだ」
「ヒョン、」
「大事な家族から離れて、それでも叶えようって」
「ヒョン、ねえ…」
「…なまえも、そうなんだって、思ってた」
寂しげな声。
それは、同志を失ったような
妹を失ったような
…恋人を、失ったような。
…この人がどうして彼女に辛くあたるような真似をしたのか、なんとなく分かった気がした。
歌も、ダンスも、作曲や作詞もまだまだ勉強中の僕より少し先に…いや、ずっと先にこの人は居て
本当に、愛しているんだ。
音楽という夢も
それを一緒に追う僕らの存在も
彼女の才能も。
「はあ。………先帰るわ」
ゆっくり立ち上がったヒョンが、的を外したいくつかの楽譜を拾い、改めてゴミ箱に落とす。
「…ユチョニヒョン…」
「…謝るよ。笑顔で見送る。…独りよがりだって、分かってたんだ。…ごめん」
「………」
「でも……」
守ってやりたかったんだ。
彼女の夢を。
ドアを閉める時に落とされた言葉。
泣いていてもおかしくないのに、彼は泣いていなかった。
…僕は さっきよりよほど自分を恥じた。
悲しみはみんな一緒だと、なぜ僕は思っただろう。
彼は母を離れ
弟を離れ
たった一人夢を追うこの地で見つけたなまえという異邦人を
…きっと、半身のように感じていたのに。
立ち上がり近づいたゴミ箱の後ろ、的からはぐれた最後の一つを見つけた。
楽譜の1ページ目。
タイトルは書かれていない。
ただ
なまえ
と
それだけ、楽譜の裏に走り書かれていた。
「…………」
もう一度、握りつぶす。
僕は本当に自分を恥じた。
誰かの…
ユチョニヒョンの なまえを思う気持ちを知らなければ
僕は自分の恋にも気付けなかったのだ。
それほど、子供なのだ。