ころがる林檎
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帰り道、駅まで送るジェジュンはいつも改札で私を引き止める。
何度も何度もキスをして、もう少し、と粘るジェジュンをなだめすかして私は改札を抜けた。
そして自宅の方面に向かう電車に乗り、1つ隣の駅で降りた後。
もう一度、反対方面の電車に乗りなおす。
さっきジェジュンに手を振った駅を過ぎ、3つ進んだところに、それはある。
大きな坂。
とっぷりと暮れた夜を見下ろす坂のてっぺんは夏でも涼しくて、見上げると星が近く感じる。
ここには悲しい思い出しか無いはずなのに、こうしてたまに来ずにはいられない。
不思議と、疲れたと感じる日はここに来ると元気が出る。
ジェジュンと過ごしたあの夜も終電ギリギリになりながらここに来た。
ただガードレールに座って、星を見て、帰るだけ。
近くにあるチャンミンの家に用があるわけでも、そこに思いを馳せるわけでもない。
真っ暗な夜の坂。
夕日を背に夜に向かって泣きながら下ったあの日から、ここはずっと夜のままだ。
居心地のいい場所であるはずがないのに、なぜだろう。
ジェジュンの部屋よりもよほど落ち着くと思ってしまう。
ジェジュンのことを嫌いになったわけじゃないのに、ひどい話だ。
星から首を戻して罪悪感に少しだけ涙した。
ここでしか私は泣けないけれど、それでもほんの少ししか涙は出ない。
思うように泣けなくなってどのぐらい経つんだろう。
最後に思い切り泣いたのはいつだろう。
ここで泣いた後だってしばらく泣き暮らしていたはずなのに、思い出せるのはこの坂の上から見た 遠くでにじむ夜空だけだ。
ひとしきり深呼吸して時計を見た。
そろそろ帰ろうと駅の方を向く。
坂の下。
駅から向かってきていた人影が立ち止まった。
「…………先輩」
「………こん、ばんは」
俯いていたのに、人の気配に上げたのだろう顔が私を見つけてしまう。