ころがる林檎
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同じ部活の先輩と後輩から始まった私達。
春の校庭は明るくて、よろしくと頭を下げた新入部員の中で彼が一番輝いて見えた。
誰よりきれいなお辞儀も
緊張でいっぱいの自己紹介も
その後、次の人へ移った人目に安堵して はにかむ笑顔も
なにもかも、特別に見えた。
二年生代表で一番だらしないお辞儀をしたうちの弟と、何がとりもったのか仲良くなってくれたのをきっかけに、少しずつ会う時間が増え、距離が縮まって。
いつだったか、まとめて宿題を教えていたユチョンの部屋で 二人きりになった数分間
チャンミンが何か言いたげな顔で私を見たとき
口をついてこぼれかけた好きだという言葉を、チャンミンが先に言わなければ我慢せず言えていただろうか。
最初から私は愛情表現が下手で、頷くだけで返事をした自分を今でも絞め殺したいと思う。
朝練より少し早めの密会は、そんな距離を詰めるためにどちらからともなく決めた約束だった。
あの教室に記憶となって染み付いている初めてのキスも、チャンミンが緊張でいっぱいになりながらしてくれた。
その時の 幸せや、驚きや、戸惑いや、後悔や不安や…そんなものがないまぜになった気持ちは、やっぱり忘れていない。
受け入れるしかできない自分と、そんな私に少しずつ遠慮し始めたチャンミンとの間に距離ができたのもその直後だった。
真面目な性分だけに話し合いも回を重ねるごと固くなって
受験、とか、部活、とか、将来、とか…
もっともらしい理由を並べ立て、集中力を欠いたまま迎えた散々な引退試合の後、とうとう決着した二人の別れ話は。
…本当は、愛され続ける未来を信じきれないでいた私の
不安を拭ってほしいという小さなサインから始まったなんて…
チャンミンは、今も知らない。
恋人に知られない愛がこんなに悲しいと、私はその時知ったのに。
けれどそれは知られることのないまま、話し合いを終えたチャンミンは私を送ろうと一緒に自分の家を出た。
超えなければ駅まで行けない大きな坂を、てっぺんに上りつめるまでずっと待っていたけれど、引き止められることはなく
耐え切れず「一人で帰りたい」と言った私が、「じゃあね」と努めて明るく笑いかけると
チャンミンは唇の片端だけを上げて笑い返し、綺麗なお辞儀をして、帰っていった。
私の立つてっぺんから夕焼けに消えていく、細く頼りない背中。
私はその頼りない背中も不器用なところも愛していたし、本音を言えば、同じだけ愛されたかった。
その愛が知られることはなく、知られても受け止められてはいないのかもしれないと、真っ赤な背中を見た時にようやく諦めて、私は夜に向かって坂を下りながら、ひたすら泣いた。
ようやく傷の癒えた今だってこんなに鮮明で忘れられないのは、これが初めての恋だったからだ。
それは、揺るがない事実なのだ。