ころがる林檎
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ぬるいお茶。
コップを持つ手から、熱がどこにも逃げられない。
どうにかしたくて立ち上がり、窓を開けた。
びゅう、と風が外を飛んで 私の髪をなぶってから、部屋に入れないとでもいうように踵を返し 目の前を吹き去る。
二人乗りの、派手な色の自転車が遠くの路地から出て走ってくるのを 何の感慨もなく目で追った。
「短い間なのに、なんでこんなに変わっちゃったんだろうね」
「…変わりましたか?」
「うん…んー…ああ、チャンミンは…いい意味で、かなあ大人になったっていうか…」
「…………」
「穏やかなのは変わらないけど…なんか…それが増したっていうか」
「…僕…あなたを坂で見たの、ほんとはあの日が初めてじゃなかったです」
急に言葉を遮られる。
無関係な、予想しなかった言葉で唇が固まった。
「何度も見ました。少し泣いてるのも、先輩が、……いつも結んでる髪を、…今日みたく、解いてた夜も」
「……!」
「…………先輩」
何かを言わなきゃと思うのに、唇は動かない。
「知ってますか?あなたと居るとき、僕が何を考えていたのか」
「え?」
言葉に普段の声色を残したまま、チャンミンが淡々と呟く。
「僕、あなたの初めてのことなら何もかも奪いたいと思ってましたよ」
さっきと視線は変わらないから、発言が理解できない。
やっと理解した時に、ようやくチャンミンの癖を思い出した。
傷ついたとき、口の端を上げて笑ってから無表情になる。
いま、まさにそれを目の前に見た。
…私は、自分が何かを失うことで、彼がこんなに傷つくなんて思いも寄らなかった。
後ろめたさと言い知れぬ迫力に、私は一歩後ろに下がる。
「…しませんよ。そんなのは愛じゃないと分かります」
「……ご、め」
「でも僕は若いから、一度くらい間違えてもいいかなあと、思う時もあります」
私が謝り終わらないうち、チャンミンが数歩の距離を大きな一歩でつめた。