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紫の文字でVIP ROOMと書かれたドアの中。
バーカウンター裏の階段から繋がるこの場所はやけに広く、恐らく地下と地上の間に位置している。
半年前までは2、3年かけてこの店に通っていたので、フロアから見える窓がVIP ROOMだろうと思ってはいたけれど…中に入ったのはこれが初めてだ。
下の男に会いたくないという私の希望と、途中で出て見つかっても危ないし朝まで飲んでいって、という目を¥マークにしたバーテンの助言で今に至る。
見渡すと、下のソファ席に比べてゆったりと配置されたソファとテーブル。
他はとくに豪華さはなく、思っていたよりはカジュアルなつくりで安心した。
あまりにラグジュアリーだと場違いすぎて逃げ帰るしかない。
「はい、なまえ、カンパイ」
「あ、っと、ちょっと飲むの早い、ユチョン」
テーブルに置いたボトルからグラスに酒をつぎ、ウフフ、と笑う隣の男の名前はここに入って少ししてから知った。
下でバーテンと話していた時は本名かあだ名か分からなかったが、ユチョン、というのは名前らしい。
フロアで踊っていたダンサーはユチョンの日本の友達で、二人とも韓国人だという。
3ヶ月程前から、毎月友達が踊っているこのイベントの時だけ呼ばれて遊びに来ているらしい。
日本語が少し詰まったりするのもそれでようやく理解できた。
会話が途中であまり通じなくなったりするが、それでも下のソファでしていたつまらない会話に比べたらよほど面白い。
だけどさっき、2回目に会った時にはもう少しハッキリ話していたように思う。
泣いてた、と図星をつかれたからそう感じただけだろうか。
今はあの鋭さを含んだ雰囲気は消え、ふにゃっふにゃの眠たそうな笑顔でグラスをあおっていらっしゃる。
それはさっき廊下で見た笑顔と少し似ていて、私は繰り返し、吊り橋効果、と頭で唱えた。
「ユチョンめちゃくちゃ眠そう」
「んー、あんま、寝てない…」
「なに?仕事?」
「うん…」
「明日…てか、今日は?」
「しごと…」
グラスを止めさせる。
「じゃあもう帰ろうよ。近い?家」
「ん、だめだめ」
「遠いの?」
「ちがうよ……はい」
ユチョンが私にグラスを持たせて、また一方的に乾杯をする。
「…かんぱい」
「カン、パイ…」
「……………」
よし、と笑ってまたグラスを傾けるユチョンの目は、やっぱり疲れがにじんでトロンとしている。
「…じゃないよ…ねえ仕事でしょ?」
「だってー…」
なぜそこまで粘る必要があるのか分からず、私はグラスを置いた。
「あたしも一緒に出ればいい?心配してくれてるんでしょ?」
「んー…」
「もうあれからだいぶ時間経ってるし大丈夫、もうあの人も居ないと思うし、なんなら大通りまで一緒に出れば」
「ちがうちがう…」
ユチョンもグラスを置き、私の方に向き直る。
そして、この数時間で何度も見た、言葉を探す顔をした。
その顔を、私は「吊り橋効果」と頭で唱えながら見ている。
そんな風に粘られたら期待をしてしまいそうで。