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赤い文字でwomanと書かれたドアの中。
私はフラッシュバックのような記憶に苛まれて鏡の前に立ち尽くしていた。
この店に来なかった半年の間のことが瞬きのたびに断片的に蘇る。
記憶というのは恐ろしい。
匂いが加わるだけでこんなにもリアルになるなんて。
途切れ途切れの声は、だんだんと優しいものから恐ろしいものへと変わっていく。
七分のブラウスの袖を少し捲り上げると、今はそこに無い跡が肌の内側に浮かんで消えた。
半年間、自分が恋人に何をされていたかを嫌でも思い返さなければいけなかった。
毎晩のように遊び狂っては人の温もりを探していた私を、健康的なその手で太陽の下に連れ出してくれた人のこと。
信頼を手にしたその人が同棲という言葉で私を閉じ込めた、あの部屋のこと。
社会に生きる人間として最低限の生活以外は全て拘束されたあの部屋。
誰にも会えない。
プライベートがない。
恋人という肩書きを持つ男からの、暴力を伴う絶対的な支配。
特にベッドでの出来事はもう、私の中でトラウマに等しかった。
少しずつ少しずつ仕事場に移動させた最低限の荷物を持って、会社から帰る場所を 新しく借りた部屋に変えた2ヶ月前。
最初こそモメたものの、早々に新しい相手を作ったという元恋人に怯える理由は、今はもうない。
出逢ってから別れるまでの半年。
自分が何を求めていたのか、何を手に入れたのか、何を失ったのか。
本当のところ、まだ何も整理できていない。
ただ、表面的には何の傷も残らなかった私は、比較的 元気だ。
だからこそ、過度な支配から免れた解放感と同時に、パートナーを失った寂しさをどうしていいか分からないでいる。
こんな経験をしてまだ誰かに愛されたいなんて、あさましいと自分でも思う。
男がみんなああではないと思いたい願望もある。
支配されたいという願望があるのも嘘ではない。
けれどもう二度と、あんな生活には戻りたくない。
寂しさと恐怖のせめぎあいが涙を促す。
鏡の中、私の顔がグチャグチャに歪んでいった。
あんなに音楽に呑まれているのだから、この静かな場所から外になんて声は漏れない。
声を上げるのをはばからずに済むのに
寄る辺ない私は無意識のうち、自我を保とうと声を押し殺して泣いていた。